日本人の所得と資産
先日、経団連の中西宏明会長が、連合とのオンライン会議で「日本の賃金水準がいつの間にかOECDの中で相当下位になっている」と語るなど、日本の賃金が下がっていることが話題になってます。 OECDの実質平均賃金データをHPで確認すると、日本の順位は、1990年時点で22カ国中12位、2000年時点で35カ国中15位、10年時点で21位、19年時点で24位まで下がってました。19年の数字を1990年当時の22カ国で比較すると、日本は21位です。OECDに後から加盟し、まだ賃金の低い国に救われている形ですが、実質後進国と変わりありません。
次に90年当時の22カ国で、この30年間の名目賃金と、物価変動を考慮した実質賃金の伸びを見ると、名目賃金はほとんどの国で2倍以上になってますが、日本は最低の記録で、ほぼゼロの伸びで飛び抜けて低い数字です。実質賃金も50%程度伸びている国が殆どですが日本は5%程度で、これも相当に低いのです。
それぞれの国で名目賃金の伸びと実質賃金の伸びを見ると、相関係数は0・75(1が最大)になっているのがわかります。この観点から、日本の実質賃金の伸びが世界で低いのは、名目賃金の伸びが低いからだといえるのは経済学の基本の㋖です。
名目賃金は、1人当たり名目国内総生産(GDP)と同じ概念なので、名目賃金が低いのは、名目GDPの伸びが低いからだということになります。
ここでもう一度、2月24日に書いたblogの図を見てみましょう。
上記の図と違い日本の名目GDPは90年からほとんど伸びていません。これは世界で最も低い伸びであり、先進国の中でも際立って低いのです。そのくらい名目経済が成長していないので、その成果の反映である賃金が伸びていないのは当然の結果です。労働が経済活動からの派生需要である以上、経済が伸びなければ賃金は伸びません。つまり、賃金が低くなったのは、90年代以降の「失われた時代」の結果です。
これについて色々な意見がありますが、この30年間で名目GDPの伸び率と最も相関が高いのはマネー伸び率です。世界各国のデータでみても、相関係数は0・8程度です。マネー以外に名目GDPの伸び率を長期にわたってうまく説明できる要因はデータでは何一つありません。
そこで重要な事は、マネーは金融政策でコントロールできるという事です。このblogでも十年以上も同じ主張を続けてきました。
しかし、金融政策の主体である日銀はかつて、「マネーは、経済活動の結果であって管理できない」とアホ丸出しのことを自慢げに語っていました。マネーが管理できないなら中央銀行は不要のはずですが、こうしたばかげた議論が実際にあったんです。
2000年代になっても、日銀はインフレ目標を否定し、その上、デフレ志向でした。一時期よく言われた「良いデフレ論」という狂った考え方です。 しかし、そうした狂った意見は徐々に修正されてきました。第2次安倍晋三政権になると、世界の先進国でビリではあるものの、ようやくインフレ目標が導入され、日本もまともになり始めました。2000年代初めのような愚かな議論はなくなりました。それでも現状は胸を張って「デフレ脱却」と言えるところまではいっていません。やはり日銀が「過去の金融政策は間違いであった」とコミットすることが市場の信認を得る一番の方策だと思います。
仮に、日銀と政府が金融政策を誤らなければ、上記のアメリカのグラフに追従して、日本人の平均所得は800万円以上、平均金融資産は3000万円に達していました。国民の一人一人が無知でなかったら、日銀とマスコミを監視し、そうなっていたのです。
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