時事

日本のマスコミは在日の方が多いので、韓国からの訪日が激減したと報じますが、訪日外国人全体を見れば7%増えており、米中貿易戦争の影響で中国経済が失速しているものの、日本にやって来る中国人観光客の客単価は衰えていません。訪日外国人のうち3割弱を占める彼らの人数は、今年に入ってからも前年同月比で10%以上の増加が続いています。

中国が不景気であるにもかかわらず、日本にやって来る中国人観光客が増えているのは、日本での買い物が「安い」からです。かつて日本は世界でも有数の物価が高い国でした。景気低迷が長引き、その間に日本を除く諸外国が経済成長を遂げたことから、日本の相対的な物価は安くなりました。不景気になり、中国での高額なショッピングを手控えるようになったことで、余計に日本の買い物が魅力的になったのです。

一般的に各国の購買力の差はGDPと為替レートによって決まります。1985年のプラザ合意によって日本円は10年間で1ドル=240円から80円台まで3倍近くに高騰しました。財務省や政府関係者は「円が強いのは考えようによってはいいことだ」などと、経済学を全く無視した発言を繰り返しました。同じ金額で買えるモノの量が3倍になったことで、当時の日本人が海外に行くと全てが安く見えたものです。パリやミラノが、ブランド物を大量購入する日本人観光客であふれ返っていたのもうなずける話で、今の若い人には想像もできないでしょう。

1ドル=約80円まで進んだピーク時と比較すると、今の日本円は25%ほど減価していますが、日本人の購買力は為替の変動以上に大きく減少しています。理由は、日本以外の各国が経済成長したことによって、日本の相対的な経済力が低下したからです。

過去20年間で日本の名目GDP(自国通貨ベース)はほぼ横ばいで推移しましたが、同じ期間でアメリカは2.3倍、ドイツは1.7倍、フランスも1.7倍、中国は10.4倍に経済規模を拡大させました。1人当たりのGDPについても、ほぼ横ばいの日本に対して、アメリカは1.9倍、ドイツは1.7倍、フランスは1.6倍、中国は9.3倍になりました。

1人当たりのGDPはその国の平均賃金に近いので、各国の購買力は日本の1.6倍から2倍になったと判断してかまいません。物価も同様で1.3~1.5倍になっていますが、日本は横ばいです。

一般的に為替レートと購買力平価は相関関係にありますが、必ずしも為替は物価とリアルタイムに連動するわけではありません。日本円の為替レートが大きく変動していないのに、各国の経済規模や物価は1.5倍から2倍になっているのですから、外国人の購買力は大幅に増加したことになります。つまり、日本人が同じ金額の日本円で外国から買えるモノの量が減った半面、外国人が日本から買えるモノの量は増えたということになります。

中国人が日本にやって来て「何もかもが安い」と驚くのはこういう理由があるのです。「安い」ということは、ビジネスにおける魅力の1つであり、日本の成長鈍化はインバウンド需要という点において有利に働いています。しかし、日本の購買力が低下していることは、日本人自身の生活にはマイナスが多く、日本はデフレと言われ、実際、国内物価はあまり上昇していませんが、それは国内要因が大きい製品やサービスに限定された話で、スマホや自動車、通信料金など、グローバルに価格が決定する製品やサービスは、デフレだからといって国内価格が安くなるわけではありません。実際、自動車の価格は一貫して上昇が続いてきました。日本が「安い」国であることは、日本の消費者にとっては百害あって一利なしです。