about NFL

大統領選を控えたアメリカではNFL選手の投票は事前に済んでいます。日本でいう「期日前投票」なのですが、実際に現在もめている「郵便投票」という手段は第1次世界大戦前の法律で、これで揉めて最高裁判決になっても、最高裁すら判断できないようないい加減なシステムですから、選管には非難が集まるでしょう。

シーズン6週が終わり、明日はweak7.贔屓のシアトル・シーホークスはNFL32チームの中で3チームだけが全勝で残っている中の1チームです。今までは他地域との対戦でしたが、今秋からは同地区対決。先ずはアリゾナです。NFLはAFCとNFCにリーグが分かれ、さらに4ブロックに分かれています。各ブロック首位は自動的にプレーオフに進み、リーグ最多勝利のチームにはアドバンテージがあるとは言うものの、野球のように辛気臭いスポーツと違い、すべては「一発勝負」。負けたら終わりです。もともとが軍隊のスポーツとして始まったスポーツらしく、「負けたら‟死”」なのです。

先々週のビル・ぺチックのプレスカンファレンスで「ラッセル・ウィルソンはメディアや専門家が評価する以上の、史上最高のクオーター・バックだ」と発言していましたが、NFLをおおよそ50年ほど観てきているボクも同感です。ウィルソンほど優れたQBは今までいませんでした。ボクがまだボルチモアを応援していた頃、初めてウィルソンを見ました。プレーオフの第一戦でワシントンとのゲームです。その年は4人のドラフト入団のルーキーがスタータを勝ち取る異例の年で、ドラフト下位指名のシアトルのウィルソンが全体2位指名のワシントンのRG3に挑むゲームでした。中盤まで緊迫した展開で後半に入り、そこでオプションプレーでRBのマショーン・リンチにピッチされ、リンチが右サイドのオープンを駆け上がったときに、インサイドから追い越していたウィルソンがリンチのリードブロックに入ったのです。何十年もアメリカンを見、自分でもプレーしていた経験から、それは全く予測もしないファインプレーでした。自分では、たいていのプレーは事前に予測する能力があると思っていますが、ウィルソンの行動は予測どころか見たこともないプレーでした。アメリカン・フットボールをよく知らない人が見ても全く分からないであろうウィルソンのリードブロックという地味なプレーは、それを見たチームメイト、コーチ、ファンを後々まで魅了するに値するプレーでした。現に、ボクも魅せられた一人です。

アメリカン・フットボールチームはQBを中心に構成します。ボクが現役のころは、チームで一番どんくさい奴が一番努力して勝ち取るポジションと言われていました。それは語弊がありますが、ウィルソンは新人から3年間、毎日朝の5時にはクラブハウスに入り、プロですから5000ページはあるであろうフォーメーションブックを理解し、暗記し、敵のビデオを選手毎、プレー毎、ゲーム毎と全角度から目を通し、敵の動き、プレーの癖、敵選手の顔色まで頭に叩き込んでいます。QBだからと尊大な態度をとらず、サイドラインでは多くのプレーヤーに声をかけ、たとえミスしたプレーヤーにでも公正に接しているようすが伺えます。チームの仲間やコーチの尊敬と信頼を集めているのが映像からも手に取るように伺えます。無論、クオーターバッキングは知的で無駄がないだけではなく、全てにおいて基本に忠実で王道を通しています。奇をてらったことや目立つことを避け、必要以上に点を取ることもしませんから、データ上のスコアは伸びませんが、50点、60点と得点するようなチームには、たとえ自軍が不調でも必ず勝ちます。というか負けません。「負けない」と「勝つ」は同じではありません。勝ちは千差万別ですが、負けは「終わり」を意味します。終われないから負けないのです。終わるとチームメイトの雇用やギャラにまで影響が及び不協和音が出ます。負けれないという覚悟があるからこそ、チームのみんなはウィルソンに付いて行くのでしょう。

ラッセル・ウィルソンは、アメリカン・フットボールという競技が戦争だということがわかっている数少ないプレーヤーなのです。今年は日程の組み合わせが良く、シアトルの実力であれば戦う前からプレーオフは約束されていました。5年ぶりのスーパーボウルへ大いに希望が持てますが、一発勝負は「負ければ死」。