NHK
テレビがあってもなくても、NHKに届け出が必要に という意味不明な話が舞い上がっています。NHKが総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会」に出した説明資料を見ると、「制度改正のお願い」とあり、ポイントは大きく以下の3つです。①テレビを設置した場合の「届け出」の義務化 ②テレビを設置していない場合の「未設置の届け出」の義務化 ③受信契約を結んでいない世帯について、居住者の名前や転居先を公共機関などに照会できる制度の導入 ---------- これは事実上、受信料の支払いを法律(放送法)で義務付けることで、受信料の不払い問題を解決しようというものです。即ち放送法の改正が必要になりますから菅総理が首を縦に振るわけがないのですが、もっと驚くべきは、元は総務省から分科会に法改正の働き掛けがあり、NHKがそれに乘ったということです。どうやら総務省は菅総理が官房長官時代に担当課長が左遷された件で懲りておらず、総務省の天下り先(NHK)確保に全力で進んでいるようです。
昨年6月26日、NHKだけ映らないテレビを自宅に設置した女性が、NHKとの受信契約の義務が存在しないことの確認を求める訴訟の判決が東京地裁でありました。担当の小川理津子裁判長は原告側の訴えを認める判決を言い渡し、インターネットを中心に大きな話題となったのですが地上波や新聞ではほとんど報道されていません。
NHKだけを映らないようにする原理は単純で、関東地方の場合、東京スカイツリーから発信される電波では、NHKのEテレが物理チャンネルの26チャンネル、NHK総合は27チャンネルが使われています(有線保除く)。この中間である554メガヘルツにピークを持つLC共振型ノッチフィルター(特定の周波数帯域をカットする回路)というものを使うと、NHKの2局のみ映らないようにすることができるのです。電気工学を多少でも学んだことがある人間なら誰でも理解可能で、東京の秋葉原で部品を買えば自分で製作することもできます。このフィルターを使った訴訟はこれまでも何件か行われているのですが、いずれもNHK側の勝訴で終わっていました。ただ、これはアンテナコンセントの壁内にフィルターを埋め込む工事を行った上で「NHKに受信料を支払う義務がないことの確認を求める」債務不存在確認訴訟の形で行われました。結果は一審、二審ともに原告が敗訴。その理由は「フィルターは取り外すことができるので、NHKが受信できる設備に復元可能」というものでした。更にもう1件も同様の訴訟で、今度はフィルターを金属と接着剤でテレビに固定した形で行われ、原告側は「これならばフィルターは取り外せない」と主張しましたが、被告であるNHKは同じテレビを再現し、フィルターが取り外せることを示し、このNHKの主張が認められ、こちらも原告敗訴で確定しています。
今回、原告が勝訴したのは、市販のテレビ内部にフィルターを埋め込んでおり、外見上は普通のテレビにしか見えません。フィルターは金属箔や金属板で電波の遮蔽をした上、回路基板に樹脂で固定されており、取り外そうとすると回路基板が破壊される仕様委になっています。「これならば、NHKが受信できるようには復元できない」というのが原告側の主張でした。これに対して被告のNHKは、同じテレビを実験的に再現し、「同軸ケーブルの芯線をむき出しにしてチューナー部に近づければ、NHKの放送が受信できる」と主張。ところが実証実験の結果、NHKが示した方法でNHKの放送を受信できないことがその場で確認され、その後、NHKは「強力なブースター(増幅器)を使えばNHKの放送を受信できる」と述べた上で、「フィルターは取り外せる」「NHKの放送を受信できなくても、民放の放送を受信できる機能があれば、受信契約を締結する義務がある」などの主張を行いましたが、判決ではいずれの主張も退けられています。
NHKが主張するブースターについては、その価格がテレビ本体の価格を上回ること、そしてフィルターが取り外せるとの主張については、上述の立ち会い実験で被告の試作機が原告所有のテレビを忠実に再現できていないことが示されたため、NHK側の主張に十分な信頼性がないことが、判決の理由となっています。また、仮にフィルターが取り外せるとしても、専門知識のない原告がそれを実施するのは無理であることも判決理由として挙げられています。過去の裁判と違い、NHK問題について政治的な活動をしていた原告ではなく、原告が一般市民であったことも判決に影響している可能性はあります。
当然ながら、NHKは必ず控訴するでしょう。7月2日の定例会見で、NHKの前田晃伸会長が控訴の方針を示しており、争いは最高裁まで続くものと予想されます。もし、原告が最高裁で勝訴すれば「NHKだけ映らないテレビを量産して、ひともうけしたい」と思っている人もいるかもしれませんが、ことはそのように単純ではありません。そもそも、技術的にはNHKだけ映らないテレビを製作するのは簡単です。では、なぜテレビメーカーはそれをしないのかというと、NHKがテレビ放送に関する大量の特許を取得しているからです。特許情報のデータベース「特許情報プラットフォーム」(J-PlatPat)で検索すると、デジタル放送に関するNHKの特許は出願で1千件以上、権利化されたもので100件以上あります。NHKによるものだけでなく、各家電メーカー所有のものも含めてテレビに関する特許は、電波産業会(ARIB)必須特許ライセンスや、4K、8Kなどの超高精細テレビ(UHDTV)に必須な特許ライセンスとして、「アルダージ」という特許権プールの会社により管理されており、この特許権プールがNHKの特許を含む以上、NHKだけが映らないテレビで特許使用が認められることはまずありえません。したがって、NHKだけ映らないテレビを手に入れるには、この訴訟の原告宅のテレビのように、市販のテレビを改造するしか手はないのです。しかし、それでは手間がかかる上に技術力も要求されるため、量産して多くの人に届けるのは現実的には難しいだろうと思っていたところに、なんとAmazonは販売を開始しました(笑)。
そもそも、NHKは放送法に基づき設立された日本の公共放送を担う特殊法人で総務省が所管する外郭団体です。取得特許があると言えど、国際法ではNHK保有特許は国家が所有しているのと同じ扱いになり、国家介入による民間営利活動への侵害に当たるんじゃないかというのがAmazonの見解です。
0コメント