すり替え
こういうのを「論理のすり替え」といいます。現在の、そして来年の円高の要因は一つしかありません。アメリカ、EUともに金融緩和でマネーサプライを拡大しているのに、日銀は従来から変化なし。それが原因です。それまでから拡大していたとかいうのは理由になりません。アメリカが拡大すれば日本は追従しなければ、ドルの量に対して円の量が少なくなりますから「円高ドル安」になるのです。
下記は、日銀と財務省の無策を「アメリカのお情け」にすり替えようとするエコノミストの『騙しのテクニック』。実際に、こんな風に考えてたらみずほは倒産しています。
2021年の視点:バイデン政権は円高阻止に手を差し延べるか=
上野泰也 みずほ証券
[東京 30日] - もうすぐやってくる2021年は、1月20日に米国大統領として新政権をスタートさせる民主党のジョー・バイデン氏にとっても、9月の自民党総裁選で再選を果たして本格政権への移行を目指す日本の菅義偉首相にとっても、まさに正念場となる1年である。 もうすぐやってくる2021年は、1月20日に米国大統領として新政権をスタートさせる民主党のバイデン氏にとっても、9月の自民党総裁選で再選を果たして本格政権への移行を目指す日本の菅首相にとっても、まさに正念場となる1年である。生い立ちは大きく異なるものの、酒をたしなまない点では共通項がある2人の政治家によるパフォーマンスの巧拙、および彼らを取り巻く政治・経済状況の変化は、新しい年の経済やマーケットを予想していく際には、見逃すことのできないファクターである。 むろん、ドル/円の相場展開については今年と同様、来年についても100─110円を中核とする狭いレンジ内での動きにとどまるだろうという、筆者の根本的な相場観に変わりはない。とはいえ、そうしたレンジの中で上下どちらに傾くのかに、日米の政治動向などが影響してくる。 <バイデン次期政権に待ち受けるハードル> まず、バイデン次期大統領にとって、新しい年の最初の関門は、1月5日にジョージア州で行われる上院議員選の2つの決選投票である。共和党の持つ2議席を両方とも奪い取ることができれば、上院の議席は民主党と共和党が50ずつになり、上院議長を務めるカマラ・ハリス副大統領の1票により、民主党が過半数を占める計算になる。 ジョージア州のケンプ知事とトランプ大統領の対立から共和党側が内部分裂の様相を呈する中、今回の決選投票を棄権する共和党支持者が少なからず出そうだということは、共和党にとって不利な材料である。また、長い間共和党の地盤だったこの州では人口移動もあって地殻変動が起きつつあり、大統領選挙はバイデン氏が制した。 とはいえ、足元の世論調査ではやや不利になっている民主党の新人候補が全勝するのは、なかなか難しいだろう。ホワイトハウスからトランプ氏を追い出すことに成功した民主党支持者の間では達成感から熱気が薄れており、今回も投票にしっかり行くよう支持者を促すのに、陣営が躍起になっているとする報道も出ている。また、仮に民主党がジョージア州で2勝を収める場合でも、上院における審議で議事妨害(フィリバスター)を排除することのできる議席数である60議席には遠く及ばない。 さらに言えば、バイデン次期政権は「内憂」にも悩まされそうである。民主党内で一定の勢力を有しているサンダース上院議員、オカシオコルテス下院議員らに代表される左派(急進派)の存在である。上院における勢力分野の問題もあって、共和党穏健派の議員の支持も得られそうな中道寄りの法案提出を、バイデン氏は志向するとみられる。 だが、そのことは民主党内の左派から強い反発を招く可能性が高い。結局、党内の造反票を覚悟しつつ、共和党から穏健派を切り崩すといった、綱渡りの議会運営にならざるを得ないのではないか。 <米株に左右される外為市場に> このように考えると、バイデン次期大統領が力強い指導力を発揮して政権公約の実現にまい進する姿は描きにくい。そのことに対して米国株が大きくネガティブに反応すれば、市場は全体として「リスクオフ」に傾き、投資家は戦線を縮小。ユーロや豪ドルなどからドルに資金が還流することを通じて、ドル指数はいったん上昇する可能性が高い。 ただし、「リスクオフ」の下で米国債を買う動きが強まってドルの長期金利が大きく低下するようだと、そのことは一時的にはドル売り材料になり得る。 そうしたいくつかの場面を経つつ、中央銀行がバックにいる「官製バブル」への安心感を足場に、何らかの理由をつけながら米国株は買い戻されていくだろう。すると、上記とは逆方向の動きが為替市場で起こり得る。結局のところ、米国株の動き方次第で為替相場全体が上下動する場面が多くなりそうだ。 バイデン氏による政策運営には、就任前からすでに事実上タガをはめられている部分もある。特に顕著なのは、中国に対する強硬姿勢である。議会を含む米国内における反中国ムードの高まりを考えると、トランプ政権が発動した中国に対する制裁関税を早期に撤回するわけにはいかない。 12月18日にはトランプ政権が、小型無人機ドローン世界最大手の中国企業や、半導体受託生産で中国最大手の企業を、安全保障上の懸念を理由とする禁輸リスト(エンティティー・リスト)に掲載した。中国側からよほどの譲歩を勝ち取りでもしない限り、そうした措置をバイデン次期政権が撤回するわけにはいくまい。 <対日重視のシグナル> この流れの中で、バイデン次期政権がトランプ政権とはっきり異なりそうなのが、日本や欧州諸国などの同盟国との協調路線である。中国と軍事的に対峙する上でも、日本との同盟関係は欠かせない。バイデン氏は菅首相との11月12日の電話会談で、沖縄県・尖閣諸島が対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象になると明言した。菅首相は12月19日の講演で、こうしたバイデン氏の発言を「正直、想定してもいなかった」と述べた。バイデン氏の対日協調姿勢は、支持率が低下し始めている上に、ドル/円相場のドル安・円高進行を警戒している菅首相にとり、実に心強い話である。 官房長官在任中から円高けん制色がきわめて強く、実際に円売り・ドル買い介入の準備を進めたこともあるとされる菅氏は、首相に就任した後も円高警戒姿勢を緩めてはいないようである。日経新聞の経済コラムには、財務省幹部に対して菅首相が「100円を割らないようにしてくれ」と指示したエピソードが紹介されていた。日銀の金融政策による対応、すなわちマイナス金利の深掘りが、円高阻止という目的では頼りにならず、地方金融機関の収益への悪影響を考えると国内事情からも発動がきわめて困難であるとみられている。 その中で、市場で円高進行の余地を試すような動きが出てきた場合の対応策は、やはり為替介入になるとの見方が多い。上記の首相指示は、最初は口先介入から始まって、最終手段としては実弾介入も用意するということだろう。円売り・ドル買い介入を実行する場合の理由付けは、G20(20カ国・地域)やG7(主要7カ国)による政策協調の中で認められている、為替相場の不規則な変動をならす目的で実行される「スムージングオペ」としてである。その際には、相手通貨の通貨政策を握っている米財務省に対して仁義を切る(容認を取り付ける)必要がある。 中国の為替介入を強く非難し続けたトランプ政権よりも、日本を含む同盟国との協調重視が明確なバイデン次期政権の方が、為替介入を容認してもらえる余地は大きいと筆者は考えており、尖閣諸島に関する上記の発言からそうした見方を強めている。 菅首相の自民党総裁任期満了は9月末で、衆院議員の任期満了が10月21日。東京五輪・パラリンピックを開催する場合は、衆院解散に打って出るタイミングはますます限られてくる。今年の政治日程の中で、経済政策が失敗したという印象を世の中に与えかねないドル/円の100円割れは首相にとって、間違っても避けたいことだろう。 日米首脳のさまざまな思いも織り込みながら、新年のドル/円相場は展開していくことになる。
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。
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