時事

昨日一昨日は通信について書きましたので、米中の貿易全体を見ます。人々の関心は、いつ頃米中貿易戦争が終息するかにあるでしょうが、結論を言うと終結はありませんし、現状では当分の間、米中が互いに譲歩することはなかなか考えにくいという状況です。

米中貿易戦争は貿易赤字減らしという「口実」によって火ぶたを開けました。それは単なる経済問題ではなく、背景には米中の覇権争いがあり、資本主義対共産主義の「体制間競争」まで遡るものになっており、日本では報道がされていませんが、米議会ではルーズベルトの時代にまでさかのぼり中国共産党創成期からの思想や手法が論議されています。この体制間競争は、旧ソ連の崩壊で決着がつき、西側勝利で終わったかのように見えましたが、中国は旧ソ連の体制を継承しつつ、新たな覇権国として再びアメリカに挑んできたと捉えられています。

鄧小平の時代から改革に挑んだ中国はしたたかでした。あくまで弱者を装い地道に草を放ってきたおかげで、日本もアメリカも親中者ばかりになり、マスコミは左派親中に牛耳られている状況です。しかし、習近平時代になり、したたかな中国から剥き出しの覇権を唱える強国に変貌した中国に対し、アメリカは覇権国として力の政治を行っています。トランプ大統領率いるアメリカは、昨今いろいろな国と摩擦を生み出しているので、アメリカが孤立し、結果として中国が中心に新たな国際社会が成る、という見方がありますが、それは左巻き独特の数字を無視した戯言です。フリードマンの『資本主義と自由』に書かれているように、同書の第1章「経済的自由と政治的自由」で、フリードマンは経済的自由と政治的自由は密接な関係だとし、経済的自由のためには資本主義の市場が必要だと説いています。この観点から言えば、政治的自由のない中国では経済的自由にも制約があり、そうである限りは本格的な資本主義、資本主義による利益を得られません。結局、政治的自由がないのは経済には致命的な欠陥があり、市場経済を謳いながら社会主義を維持するのは不可能なのです。それでもこれまで中国は、擬似的な資本主義で西側諸国にキャッチアップしてきましたが、親中のオバマ政権から政権を奪取したトランプ大統領は中国の「窃盗経済」を見逃しませんでした。つまり、資本主義国に追いつくために、中国はこれまで知的所有権・技術の「窃盗」を繰り返し、アメリカも成長する中国市場が魅力的な間は目をつむるという相互作用がありましたが、覇権を唱えた中国共産党は見過ごせないとなったのです。


米国議会報告書等が、その手口の詳細を明かしています。典型的なのは、まず中国への輸出品について、中国当局が輸入を制限する。それとともに、輸出企業に対して「中国進出しないか」と持ちかける。ただし中国進出といっても、中国企業を買収し、100%子会社にするのではなく、中国企業との合弁会社を持ちかけるのです。その場合、外国資本の支配権はないように資本比率は外資49に対して中国51です。そして、立ち上げた合弁企業から技術を盗みだし、中国国内で新たな企業を創設して、その技術の独占を主張するといったやり方です。このような事例は後を絶たず、中国が他の先進国に直接投資し子会社を設立してから、投資国の企業や大学などから企業秘密や技術を盗むことも多数報告されています。中国の共産主義は旧ソ連のような体制内のブロック・閉鎖経済を志向するのではなく、貿易については世界各国と取引し、対外開放しているかのように見せかけたうえ、中国内への投資も自由なように見せかけている『イミテーション経済』です。共産主義の本質は「生産手段の国有化」であるので、完全には対内投資を自由にできません。そこで、中国は実質的に支配する合弁会社を利用するという手段で、見かけ上は中国への対内投資が自由にできるようにしているのですが、その隠れ蓑のなかで外国の技術を盗み出すわけですからなかなか巧妙で、ばれたら100%否定をし相手を罵倒するという逆切れ国家です。

しかし、アメリカは、中国による知的所有権・技術の「窃盗」を見逃さず、それを梃子にして中国を攻めています。それが、現在の対中関税の引き上げにつながっているわけです。もちろんそれに対し、中国も報復関税をアメリカに対して課していますが、中国のアメリカからの輸入額が1300億ドル、アメリカの中国からの輸入額は5390億ドルなので、報復関税をやりあっても、中国のほうが先に弾が切れてしまいます。これだけ「分母」が違うのですから、このことだけをみても中国には勝ち目はないように見えますが、それでは経済学上の理屈が通らないので詳細に見てみます。報復関税に関して本当に勝敗がつくのは、関税によって自国の輸入製品の価格が上昇するときです。日米の左巻きの報道では「実質負担を強いられるのはアメリカ国民だ」とトランプ氏を批判していますが、その批判には数字の根拠がありません。どのくらい関税をかけられるかではなく、関税の結果、価格が上昇するかしないか、が勝負の本質です。

この観点からいえば、アメリカの勝ちは明白です。米中貿易戦争以降も、アメリカの物価はまったく上がっていません。インフレ目標2%に範囲内に見事におさまっています。


これは何を意味するのかというと、アメリカが中国からの輸入品に関税を課したら、関税分の10~25%程度は価格に転嫁されて、結果、価格上昇があるというのが左巻きの主張ですが、それでも物価が上がっていないということは、関税分の価格転嫁ができていないという結論になります。それは、中国が関税を課す一方で価格を下げているのではなく、中国からの輸入品が、他国製品によって代替できているということです。価格転嫁ができなければ、輸出側の中国企業が関税上乗せ分の損をまるまる被ることになる(一方アメリカ政府は、まるまる関税分が政府収入増になる)。中国の物価を見ると、中国では、食品を中心として物価が上がっています。つまり、価格転嫁が進んでいるのです。



これで、現時点では貿易戦争はアメリカの勝ち、中国の負け、初回は圧勝ということになります。更に左巻きが言うように中国がアメリカからの輸入品(農産物)に関税をかけ続ければ、そのうちアメリカの輸出農家も影響を受ける、現に米農家はトランプ氏に離反していると報道がありますが、アメリカ政府は輸出農家に補助金を出すことで解消され、財源は中国へ課した関税で賄えますから補助金対策の財源には困りません。


共産主義、社会主義というのは、常に国内を見て政策を実行します。中国も北朝鮮も、苦しくなっても頭を下げるわけにはいかない国で、そんなことをすれば、体制崩壊が待ち受けているという砂上の楼閣に立った権力なのです。それに対し、民主主義には選挙があり有権者の意向で信任、不信任が決められますから、一足飛びに政策転換はできません。それをやるとトランプ大統領のように既得権から叩かれまくるという(笑)結果になりますが、叩かれても気にしなければ、それを政治のリーダーシップと呼ぶのです。トランプ登場以来、「ポピュリズム政治」などという言葉がニュースになりますが、民主主義というのは大なり小なりポピュリズムなのです。ポピュリズムでないというの全体主義のことで、ポピュリズムを批判するのは「私は社会主義者」ですと言ってるようなものです。