時事

国際社会の物騒な話の続きです。

イラン情勢がにわかに騒がしくなってきました。

7月9日、米軍の統合参謀本部議長が、ホルムズ海峡などで船舶の安全を確保する有志連合を結成する考えを示しました。日本政府にも協力を打診したと報じられていますが、日本は現在の法律でどのような協力が可能なのか、さらに踏み込んだ対応が必要になるのか。参院選の争点がボケている中、格好の外交・安全保障上の問題が降ってきた形です。

これに対して、各紙の社説は次の通りです。

朝日新聞「中東有志連合 緊張緩和の努力が先だ」

毎日新聞「ホルムズの有志連合 大義があるのか見極めを」

産経新聞「有志連合への参加 国益重んじ旗幟を鮮明に」

読売新聞や日経新聞は、「政府が対応に苦慮している」という記事は掲載するが、意見らしきモノは述べず。

この有志連合の件は、参院選でもあまり議論になっていません。安全保障に関する各党の見解を見極めるためには格好の話題であると思うのですが、与党は及び腰だし、野党も見解を言いにくそうです。

安倍総理のイラン訪問中に起こった日本関連タンカーへの襲撃事件は、日本に対する警告でしょう。アメリカはイランの仕業だと言いますが、少なくともアメリカ軍は、日本関連タンカーが襲撃される光景を上空から見ていたわけで、これがもし米国関連船舶なら、警告を出していたはずです。イランの仕業だとしても、アメリカが傍観していたという意味では、日本への警告とみていいでしょう。

ホルムズ海峡は、日本にとってエネルギーの生命線です。ここを封鎖されたりすると、日本のエネルギーは立ち行かなくなります。トランプ大統領は、日本も自国でシーレーンを守ったらどうかといいます。今回のアメリカの打診も、その延長線上にあるのでしょう。

これこそが国際政治のリアルな現状で待ったなしです。2015年9月に成立した安保法制では、ホルムズ海峡での機雷掃海が集団的自衛権行使の事例として挙がりました。これは、有志連合に参加する場合のやり方のひとつになります。

とはいえ、実際に審議に入れば、有志連合参加のための要件はかなり厳格であり、現在のような事態では要件を満たしていないという話になるでしょうし、他の融資連合国が黙っていません。であれば、法改正をすべきかどうか。

現行法では、自衛隊法による海上警備行動もありえますが、これでは、日本に関係のある船舶は守れるが、外国の船は守れないという縛りがあります。海賊対処法なら外国船舶も護衛できるが、海上警備行動と同様の行動制約があります。

こうした現行法制上の問題を考えると、特別措置法で対応ということもありえますが、何らかの形でアメリカ主導の有志連合に参加した場合、イランとの関係悪化の懸念はある。となると、有志連合に加わらずに単独警備という選択肢もある。

いずれにしても、有志連合について、(1)参加、(2)参加しないなら単独警護、(3)静観の三択が基本対応になるでしょう。現行法制で対応できなければ特別措置法となり、(1)と(2)は日本のタンカーを守り、(3)は守らない、となります。

先に挙げた新聞社説は、朝日新聞と毎日新聞は(3)静観(+別の外交努力)、産経新聞は(1)参加、ということでしょう。

米・イラン間の問題は深刻で、この状態は1990年代中盤の北朝鮮の核問題に似ています。

その時は、米朝で開戦一歩手前まで進みましたが、結果として米朝枠組み合意ができました。

しかしその後の歴史をみれば、北朝鮮が抜け駆けして、今では北朝鮮は事実上の核保有国となっっています。

このままいけば、イランも同じ道をたどる可能性が大きく、北朝鮮の時には、アメリカは具体的な北朝鮮攻撃も考えていましたが、今のイランに対しても同様に考えている可能性があります。そうでなくとも偶発的な両国の衝突が起こる可能性は少なくなく、そこにイスラエルが絡んできます。

一番いいのは、日本の船舶は日本で守るという立場で、(1)参加(条件付きまたは特別措置法での対応)、あるいは(2)単独警護(必要に応じ特別措置法での対応)が必要と思いますが、官邸はどう判断するのでしょうね。

安全保障は国の最重要基盤です。法科、経済学科でも習う通りアダム・スミスも『国富論』の中で、「安全保障は経済に優先する」と述べています。

こうした観点から言えば、自由貿易論によって輸出管理見直しを批判することや、有志連合参加の是非について議論を避けるのは、いかに情けないことかがわかります。各党の積極的な論戦があって、はじめて国民の総意が醸成されるのです。