時事

日本郵政グループのかんぽ生命保険をめぐっては、顧客に対し新旧契約の保険料を故意に6カ月以上二重払いさせていたケースなど、不正が発覚しています。背景にどのような組織の問題があるのか考えます。

昔は「日本人の生保好き」は有名で、外資系保険会社は日本市場への参入を強く希望していました。たしかに1990年代のデータを見ると、生命保険料などで日本は先進国の中でも高い部類でした。

90年代まで、日本の保険業界には縦割り規制がありました。保険業界でも生命保険と損害保険は分離され、銀行、証券とも分離されていて、大蔵の中でも所轄局が分かれていました。それが金融自由化とともに、業界の垣根が取り除かれていき、特に、証券投資信託の販売は、証券会社だけではなく、銀行にも広げらました。

実は、保険という金融商品は、保障面ばかりが強調される場合が多いのですが、運用面をも併せ考えると、保障と証券投資信託のハイブリッド商品です。つまり、掛け捨ての保険は保障機能だけといえますが、保障機能が弱く満期返戻金が強調されるような貯蓄型保険は、証券投資信託とほぼ同じもので、保険屋の業務も証券屋と同じです。

かつて保険好きといわれていた時代に日本で主流だったのが貯蓄型保険です。それが、金融自由化で、証券投資信託の販売が広く銀行などに認められ、外資系にも保険参入が認められたので、本邦系生保会社の競争環境は大きく変化しました。

その結果、今では日本の生命保険料などはおおむね標準的な水準まで下がっています。データからも、もはや日本人の生命保険好きとは言えない状況です。これは、それだけ、本邦系生命保険会社の経営が苦しくなったことを意味していて、生保会社は、節税をうたい、特に高齢層に対し外貨建て商品を売り込むことに熱心になりました。

そうした背景もあってか、最近、金融庁は生保会社の営業姿勢への指導が厳しくなっています。

生命保険を巡る環境変化は、2007年に民営化したかんぽ生命にも同じような影響を与えました。さらに民主党時代に再国営化という逆走をしました。その後のかんぽはひどい経営だったのは調べる必要もありません。

もともと、かんぽ生命の商品は、その名のとおり「簡易保険」です。つまり、保障機能が弱い(故に簡保)、ほとんど証券投資信託と同じような商品といえ、金融自由化の波をもろにかぶってきた分野です。

これに対して、かんぽ生命では、従来ながらの「ノルマ」で対抗してきたようです。民間生命保険会社のように、外貨建て・節税という商品は商品開発能力がなく作れないので、旧来商品を体育会系のノリで、販売員への「ノルマ」を課すことで乗り切ろうとしていた所が今回の発覚となりました。

民間生命保険会社は、いわゆる「生保のおばちゃん」という強力な販売部隊のセールスレディーがいたので、それを活用した人海戦術もありましたが、さすがに時代的にも限界を迎えたのか、別のステージに移行し対応しています。

かんぽ生命は民間生保会社から一周どころか二三周、周回遅れの状況で、企業価値もありません。こんな会社を親子上場させた財務相。上場幹事を引き受ける代わりに財務省と総務省から大量の天下りを受け入れた野村證券の罪は重く、かんぽ生命を叩いても何一つ始まらないのです。