時事
先週末、NFLの2019年シーズンが開幕しました。日本ではプロ野球がシーズンエンドへ向け熱を帯びているこの時期に、日米の「差」を見てみます。
9月5日にNFLの100回目のシーズンが開幕しました。放送局のNBCは、ノスタルジーを交えて試合を中継。NBCはプレシーズン中(野球のオープン戦のようなもの)スカイカム(空撮カメラ)を使った真上からの映像や、フィールドゴールがポールを外す幅を予測するためのドップラーレーダーなどの技術的な工夫をテストしてきました。NFLは、シーズンを通じて、史上最高の選手上位100人を表彰すると発表しています。
NFLは次期の放映権パッケージの交渉も行う予定で、前例に倣うなら来年後半には、2020年代にNFLがどこで放送され、どのように視聴されるか分かるはずです。動画配信大手の ネットフリックス などのストリーミング配信会社がテレビ番組の視聴者を奪い合う中、スポーツの生中継は、全米のテレビにとってかつてないほど重要な存在となっています。米国ではNFLがスポーツとテレビを支配します。NFLの試合は年間で視聴率が高い上位100番組の60%を占め、オリンピックがない年は70%を超えるのですから、当然、CMの契約もNFLに集中します。2020年のオリンピックに沸く日本ですが、アメリカでは毎年「NFL」というオリンピックを超える規模のスポーツイベントがあるのです。
テレビがNFLを必要とするように、NFLにとってもテレビは欠かせない存在で、テレビ局の株式を保有するようなオールド投資家には朗報でしょう。昨年、アマゾンはテレビでも放送されている木曜のナイトゲームをストリーミング配信しました。その結果、視聴者数はアマゾンが平均で約50万人、テレビ局のフォックスが1430万人、専門チャンネルのNFLネットワークが660万人だったようです。NFLの最高メディア兼ビジネス責任者のブライアン・ロラップが語るところ、「NFLが高い人気を誇る一因は、可能な限り多くの視聴者にリーチしている点だと確信している。有料テレビが登場した時も、無料の地上波にコミットし続けた」とインタビューで答えていました。
次の放映交渉では大手IT企業が進出する見込みで、新たな入札者の育成はNFLの利益となっていきますが、少なくとも今後10年くらいは、アメリカンフットボールのホームメディアとしてのテレビの地位は揺らがないとみられています。これが意味するのは、アメリカではテレビ局のキャッシュフローが、テレビ衰退と言われながらも一部の株価のバリュエーションが織り込んでいるよりも強靭だということです。
NFLは32の加盟チームからなる業界団体で、各チームは放映権、ライセンス、スポンサー、チケット販売から収入を得る一方、権利交渉や紛争解決を担うNFL本部に加盟料を支払う構図になっています。昨年のリーグの総収入は150億ドル(1兆6千億円)で、うち半分は国内放映権によるものでした。日本の放送局が聞いたらひっくり返るような金額です。NFLコミッショナーのロジャー・グッデル氏は、2027年までに収入を250億ドル(2兆7千億円)に増加させるという目標を掲げています。放映権からの収入を増やすことが、目標達成のカギとして言われていますから、今後ともに放映権料の値上げが行われるのは確実とみられています。
現在はCBSとフォックスが日曜午後の試合を分け合い、NBCが日曜のナイトゲーム、ESPNが月曜のナイトゲームを放送しています。直近の主要な放映権パッケージは、期間が8年から9年に変更され、2022~2023年シーズンに満了となっていて、このパッケージは427億ドル(4兆5千億円)で売却され、1年当たりの金額は59%増加しました。ウォールストリートの予想では、次期の放映権は600億ドル(6兆3千億円)に達する可能性があると推定されています。
視聴率は、2011年以降で11%低下していますが、プライムタイムのテレビ番組全体で視聴率が40%低下しているのに比べれば圧倒的な視聴率です。3大ネットワーク各社は、日曜の試合のみで10億ドル(1050億円)以上の広告収入を獲得しているものの、制作費や権利購入費を除くと損益ゼロです。ただ、利益が上がらなくても放映権料を払うメリットは、自社の番組を1600万~2000万人の視聴者に宣伝でき、ケーブルテレビ会社に対して自社のチャンネルを売り込む材料になるからです。アメリカの芸能人のギャラがウン億円なのもすべて、放送局がNFLの放映権を取得していることに付随するオマケのようなものなのです。NFLが無ければ3大ネットワークは現在のような予算でドラマを作ることもできず、芸能人のギャラも払えないという事です。
ストリーミング配信の人気は急上昇しており、大手IT企業は多額のフリーキャッシュを得ています。ウォールストリートの予想では、アマゾンとYouTubeの親会社のGOOGLが来年に創出するフリーキャッシュフローは、CBSの24倍!。よって、アマゾンはNFLやカレッジフットボールに多額を支払うと発表しています。アマゾンが木曜のナイトゲーム放送に支払う金額は、視聴者1人1時間当たり約4ドルで、ESPNは月曜のナイトゲームに同2ドル強、テレビ局は日曜の試合に同1ドル未満しか支払っていない計算になります。大手ネットワークが既得権を構築してきたものが、時代と資本の力によって再編されていくのです。
いずれにしても、このスケールの違いが経営者の資質の違いと合わさって、NFLと日本のプロ野球では同じスポーツとは思えないほど格差があるものの、どちらも「内需のみ」の市場で、どちらも「国民の1番のスポーツ」なのですから、少なく見積もっても日本のプロ野球もNFLの1割ほどの売り上げはできるはずなのです。「社団法人日本プロ野球機構」などという行政認可など返上し、営利を目的とした顧客サービスにまい進すべきです。既得権に溺れる者に未来のファンはついていきません。
0コメント