時事
現在の世界の潮流は、租税回避地や特措法などを撤廃し、企業へ課税する方向へ向かっています。理由は2つ。ひとつは、当たり前ですが税の公平性という観点。これは「個人と企業」と「国と企業」です。個人はデジタル時代で丸裸にされすべて課税されるのに、企業はタックスヘイブンや課税特別措置によって殆ど税金を払わなくていいといった不公平感をなくすため。もう一つは、「国と国」で、グローバルに展開する企業は税率の安い納税地に登記し、ビジネスを展開している国に税金を払わず儲けていることに、国も国民も我慢できなくなったからです。
税の基本は「公平性」と「シンプル」ですが、日本は先日から始まった消費税増税でも、「軽減税率」という「不公平」かつ「シンプルさの欠片も無い複雑」な税制をスタートさせました。今も税制審議会で議題に上っているのは、企業の内部留保を使った投資を非課税にするといった複雑怪奇な租税特措法です。
国家の役割は市場をきれいな真水にし、魚が自由に泳ぎ回れるようにすることであって、水に色を付けたり魚に泳ぎ方を指導することではありません。それは社会主義国のやり方です、日本の政治家や官僚は、とかく色を付けたがり、指導したがります。これは無知と自惚れが生む不幸で、結果として魚はきれいな水へ逃げ、泳ぎ方もろくに知らない官僚によって企業は溺れてしまいます。だいたい、泳ぎ方などわからないから官僚になるのであって、泳ぎ方が分かっていれば市場で勝負するものです。
そんな現代市場で一代で成り上がったソフトバンクの孫さんが、ソフトバンクG(グループ)主催のイベント「ソフトバンクワールド2019(7月18日)」で基調講演に登壇し、「日本はAIにおける開発分野で、完全に後進国になってしまった。このまま目覚めないと、やばいことになる」、こう言って嘆いてみせました…が、どの口がモノ言うの!?って感じです。
AIや自動運転など最新の技術がテーマとなっていた講演。「日本企業の戦略は焼き直しばかり」「衰退産業にしがみついている」と厳しい発言が増えている最近の孫さんですが、この日もテクノロジーについては「日本は後進国」と言い切りました。
ソフトバンクGは'16年に英半導体大手アーム社を3.3兆円で買収、'18年には主幹事業であった携帯キャリア事業を子会社化。巷では、こうした流れの中で孫さんがもっとも注力しているのは、SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)という投資事業だとされていますが、ソフトバンクはもとから事業会社ではなく投資ファンドで、ようやくそれを表に出しただけです。通信サービス企業から、日本最大規模の10兆円を運用する投資ファンドへと変貌を遂げようとしているように言うのは見えてないからで、他社を買収、それを上場、上場株を担保に社債や融資を引っ張り、得た資金で再び買収を繰り返すさまは事業会社ではなく金融会社そのものです。
孫さんのインタビューを読むと、「『孫さんは日本の会社にちっとも投資していない。何か思いがあるのか』とよく聞かれる。悲しいことに、日本には世界でナンバー1といえるユニコーン(創業10年以内、評価額10億ドル以上の未上場企業)が少ないのが現実で、投資したくても投資できない」と、日本には投資する価値がある企業がないと発言していますが、実際は、上記のような資金の回転で運営しているので、金を使わなければ会社は潰れてしまいます。まとまった金を投資できる投資先が無いというのだけが事実で、理由は、そうしなければソフトバンクが潰れるからです。
ソフトバンクは国内の投資云々以前に、もっとも大切なおカネを日本に払ってません。それは莫大な利益に対する「法人税」のことです。2018年3月期の決算で、ソフトバンクGの売上高は約9兆1587億円の過去最高額で、純利益は1兆390億円を計上しました。ところが、これほど儲けている企業が、日本の国税に納めた法人税は、なんと「ゼロ」。1円も払っていないのです。単純計算で言えば、約3000億円の法人税を国に納めていてもおかしくないはずのソフトバンクは、合法的な「租税回避」をし国税の手を逃れています。
おかしいと思ってみると、ポイントになるのは'16年に買収したアーム社の株式で、ソフトバンクGはこの株式の一部を、グループ内のSVFに移管しています。この移管は手続きだけの問題で会社側に損失があるわけではないのですが、税務上の処理ではアーム社株の時価評価額が取得価格を1.4兆円下回り、同額の『欠損金』が生じたという計算がなされ、しかもそれを国税庁が認めました。おかしな話です。
その結果、ソフトバンクGの'18年3月期決算は税務上、1兆円超の黒字が消えたうえ、赤字扱いになり、その上、東京国税局は欠損金のうち4000億円は'18年3月期に計上できないと指摘し、ソフトバンクGもこれに応じて修正申告しているという猿芝居で、通常なら1兆4千億円に対する追徴ですから、修正と罰則で5000億円以上払うはずが追徴課税は生じていません。簡単に言えば、買収した企業の株を社内で売り買いして作った損を計上して、課税利益を作らないようにしているのです。法の抜け道を利用する形で、公表利益と税務利益がかけ離れた、数字の「マジック」を作り上げるのですが、中小企業のやり方で、あまりに公益性を鑑みない企業姿勢は責められるべきではないでしょうか。
今回のソフトバンクGの件のスキームや国税の調査の詳細はわかりませんが、今年6月19日のソフトバンクG株主総会で孫氏は、開き直ったかのような発言をしていました。「世界の投資家は世界のルールのなかで色々な節税を合法的にやっている。合法的な範囲のなかである程度節税を図っていく」と。
まあ、その通りなんですが、こういう会社に許認可が必要な事業をやらせる行政責任を問えるような法整備が必要になっています。儲けたかったら儲ければ良し、但し、税金払わないなら行政の認可は出さないというのが筋じゃないでしょうか。1兆4千億円も儲けて1円も法人税払ってないんですよ。しかも初めてじゃなく、15年前から同様のことを繰り返しています。財務省が姑息に郵政の親子上場なんて認めるから罰則規定が作れないんです。
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