時事
先週は、9日に臨時国会が閉じた後、11日に国連安全保障理事会で北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる会合があり、12日にイギリス総選挙、13日に米中貿易交渉で第一段階合意がりました。返す返す、世界は動いているのに日本は桜。日本以外の世界情勢がめまぐるしく変化している中、日本では、国会の中心議題が「桜を見る会」、また国会議員による人権侵害という「平和ボケ」に終始していたのに呆れてしまいます。
世界経済の先行き不安がある中、日本でも景気対策が急がれており、臨時国会での補正予算を期待していましたが、それもかないませんでした。
先週おきた国際情勢の大きな変化を踏まえて、日本の経済と安全保障の先行きを考えます。
まず、12日のイギリス総選挙から。既に報道されている通り、来年1月31日までのブレグジットを目指す、ボリス・ジョンソン首相が率いる保守党が圧勝しました。
650議席中、保守党365議席(47増)、労働党203議席(59減)、スコットランド国民党(SNP)48議席(13増)、自由民主党11議席(1減)、北アイルランドの民主統一党(DUP)8議席(2減)、北アイルランドのシン・フェイン7議席(増減なし)、ウェールズのプライド・カムリ4議席(同)、緑の党1議席(同)、北アイルランド同盟党1議席(1増)、北アイルランドの社会民主労働党(SDLP)が2議席(2増)でした。
保守党は、全野党を合わせた議席より80議席多く、1987年以来の大勝でしたが、労働党は1935年以来の大敗を喫しました。
もっとも、保守党はEU離脱派が優勢な地域での得票率は大きく伸ばしているものの、EU離脱が劣勢な地域では得票率を若干減らしています。差し引きの得票率は伸びており、小選挙区制の特徴から大勝しただけです。
この選挙結果を解釈すると、保守党は「EU離脱」という単純明快なメッセージが支持を増やしたのに対し、労働党は「もう一度国民投票を」というスローガンでまどろっこしいのに加えて、国民保健サービス(NHS)の改革が左により過ぎたのを嫌われ、中道左派支持者からの支持を失ったのでしょう。今や、世界は反左翼に傾いています。
ただし、スコットランド国民党(SNP)は支持を伸ばしています。イギリスがEU離脱を決めても、スコットランドはEU残留に向けて住民投票をするかまえで、イギリスにとって来年は一難去ってまた一難の予感がします。
そもそも、イギリス経済にとってEU離脱は中短期ではマイナスの効果しかありません。今回の総選挙は、EU離脱のマイナス効果を「ほぼ確定」させたことに意味があります。こういうところは日本人は大いに見習うべきです。日本は損失やリスクを曖昧にし先送りすることで、「集団の為、会社の為、家族の為」という言い訳をすることに躊躇いのない民族とみられています。その結果がデフレの20年などの弊害を生み、負が連鎖していくのです。今回のイギリスは「負」の確定をしました。
イギリスの国立経済社会研究所(NIESR)は、イギリスがEU離脱した場合、離脱しない場合に比べて年間700億ポンド(約9兆8000億円)の経済損失が見込まれるとする報告書を発表しています。この報告書では、今後のEUその他との自由貿易協定はあまり考慮されてませんが、それでも、欧州経済にとっていい話ではありませn。
イギリスは、これからEUとの包括的な自由貿易協定を結ぶでしょうし、アメリカとの包括的な自由貿易も加速するでしょう。これに、日本も入ってゆく必要が出るはずで、包括的自由貿易協定は、安全保障と密接に関係するからです。
次に、13日の米中貿易交渉の第一段階合意。両国が15日に予定していた追加関税は見送られ、繰り返される制裁と報復の応酬がとりあえず一時休止になりました。
具体的には、アメリカは対中制裁関税第4弾のうち9月発動分(1200億ドル分)の関税率を15%から7.5%に半減し、第4弾の残り(1600億ドル分)の発動は見合わせます。第1~3弾(2500億ドル分)の25%は継続となっています。
ただし中国側は、アメリカは制裁関税を段階的に取り消すことで合意したと発表しました。合意を急いだあまり、両国間で完全にすり合わせができていない状況なのでしょう。合意文書の署名時期についても両国間は一致していませんから、マスコミの言う合意ではなく「暫定合意」です。
それでも、第一段階は合意できたのでまだよく、問題は第二段階です。そこには、中国の国有企業や産業への補助金見直しが大きな壁になります。それらは、中国がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加資格すらない理由でもあります。
TPPには貿易自由化だけでなく投資の自由化も含まれていますが、中国は社会主義国なので、生産手段の私有化を前提とする投資の自由化は基本的に受け入れられず、また、TPPでは国有企業が大きな障害になります。国有企業が大半を占める中国は、その民営化などを迫られるでしょうが、国有企業改革は中国の国家体制を揺るがし、共産党支配そのものを崩壊させるこちょと直結します。日本のマスコミはほとんど報じませんが、国有企業同士の融資保証、融資、相互投資が天文学的数字で、今年に入って多くの国有企業がデフォルトしており、そのデフォルトの処理も自由主義社会では到底受け入れられる方法ではありません。
これらのことから、第二段階の合意はかなり困難でしょう。加えて米中貿易戦争は、これまでも経済問題に限らず安全保障上の問題になっています。こうした問題意識は、2010年あたりからアメリカ議会では民主党も共和党も超党派で持ってきました。オバマ政権はこれを軽視していたので、トランプ政権が重点的に取り上げたという経緯もあります。
要するに、中国への強硬姿勢は、アメリカ議会に対して共和党が自信をもって進めることができる政策なのです。このため、少なくとも来年11月のアメリカ大統領選まで、トランプ大統領にとっては中国への強硬姿勢を続けたほうが政治的に得策となります。
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