時事
総務省事務次官更迭の話の続きです。
情報漏洩の発端になったのは、前述のように、かんぽ生命保険の不適切販売問題です。
これについては、一般にはガバナンスの問題とみられていますが、基本構図としては、小泉政権で郵政民営化が行われたのち、民主党政権で郵政の「再国有化」が行われ、十分な保険商品開発ができないまま魅力的でない旧商品を販売せざるを得ず、「ノルマ営業」につながったというのが事実であり、今回の情報漏洩・次官更迭もまさに、郵政がうまく民営化できなかったことの結果です。
もし民営化がうまくいっていれば、郵政に大物次官が天下ることはありませんでした。純粋な民間会社であっても、監督官庁からの情報収集のための天下りを受け入れる場合もありますが、大物次官が天下るようなことはまずありません。大物次官の場合、それなりの役職に付けざるを得ませんが、民間会社の場合、役人経験しかない元次官にふさわしい役職などなく、無理に作れば株主総会で叩かれます。読売新聞社が財務省の大物を多数雇用しているのは、日刊新聞法で守られた組織であり、一般企業ではないのです。
単に役所からの情報収入程度の目的であれば、元次官より小回りがきく「ヒラの」元役人がいくらでもいます。そうした「ヒラ」のほうが、企業側もコストを抑えられ、色んなことを頼めるので便利なはずです。
こうした点から見ると、郵政民営化が頓挫したことは、郵政グループの中心である日本郵政の社長人事を眺めてみればよくわかります。
日本郵政「社長人事」から見えること
日本郵政は、2007年10月にスタート。社長はこれまで5人です。
(1)2007年10月から西川善文氏(住友銀行出身)
(2)2009年10月から斎藤次郎氏(財務省出身)
(3)2012年12月から坂篤郎氏(財務省出身)
(4)2013年6月から西室泰三氏(東芝出身)
(5)2016年4月から長門正貢氏(興銀出身)
初代の西川氏のときは、まさに郵政民営化時代ですが、2代目の斉藤氏以降は、民主党による再国有化時代だ。先のコラムでも書いたように、2009年から民主党政権によって再国有化への転換が行われた。それとともに、民主党政権は西川氏を追い出し、当時の民主党小沢氏に近かった元財務省事務次官の斎藤氏を社長にするという、極めてわかりやすい人事を行いました。
その斉藤氏は、2012年12月の総選挙で自民党が大勝し政権復帰が確実になると、第一次安倍政権の時の官房副長官補であった坂氏を社長にすえようとしましたが、こうした人事を第二次安倍政権は拒否し、坂氏を更迭して、民間出身の西室氏を社長にしました。
ただし、再国有化からの再民営化はしていません。これは、小泉政権時の郵政民営化騒動をみれば、あまりに政治的リスクが大きいからであり、安倍政権の優先課題でもないからですが、こうしたトップ社長人事の陰で、郵政官僚はちゃっかり実利ポストを握っています。初代の西川社長の下で、総務省から副社長として団宏明氏が送り込まれました。団氏は総務省事務次官ではありませんが、郵政事業庁長官を務めています。実務的にも、郵政民営化のためには事業を回す必要もあったので、そのために欠かせない人物でもありました。
民主党政権下の2代目の齋藤社長時代にも、団氏の後任として元郵政事業庁長官の足立盛二郎が入っています。役所らしい「順繰り人事」の極みです。
そして、自公政権に復帰した4代目の西室氏のときに、元総務省事務次官の鈴木康夫氏を副社長で入れることに成功しました。総務省としては、日本郵政副社長というポストは同じですが、元郵政事業長官から元事務次官に格上げができた格好ですから、この時点で鈴木氏の株は大いに上がったはずです。霞が関では、天下り先を作ったものが出世するのです。これは旧民主党の「再国有化」状態であったからこそ可能な芸当でした。国民にとって悪夢のような民主党でしたが、官僚にとっては「脇の甘いバカぞろいの民主党」で、大いに利用できたのです。
民間出身の社長でも、郵政くらいの大きな組織になると、腹心といえる人が20人くらい必要になります。つまり、もし本気で民間出身者が郵政を経営しようと思うなら、20人くらい引き連れて郵政に入る必要があるということです。
これまで、そうした民間出身社長は西川氏しかいませんでした。西川氏は、民主党政権になってクビを切られることがわかると、連れてきた腹心たちの再就職まで見とどけて自ら辞任しています。その後に来た民間出身の社長は西川氏とは質が違い副審を連れてこず単身で社長についています。そうなると、日本郵政内部の実権はどうしても鈴木副社長が握るでしょうし、抵抗したところで官僚上がりの狡猾さでは、外堀を知らぬ間に埋められて万事休すです。その上、総務省からの情報を入手できるとなれば、ますます鈴木副社長の権力は増します。要するに、郵政「再国有化」時代においては、官僚出身者が実権を握っていたことが容易に推測できるのです。
いずれにしても、民主党時代の再国有化によって役所から郵政への天下りがたやすくなったのが、今回の情報漏洩の根本原因にあります。かんぽ生命保険の不適切販売問題も再国有化が根本にあるので、これがいかに酷い政策であるかわかります。
これらの解決のためにも再民営化しない手はないが、そのためには大きな政治リソースを割く必要があり、安倍政権では不可能でしょうから、ポスト安倍に期待するしかありません。
幸いにも、民主党の再国有化法案に反対した政治家はまだいて、当時、自民党の方針に造反して再国有化法案に反対したのは、中川秀直議員、菅義偉議員、小泉進次郎議員、平将明議員だけです。中川氏は政界を引退しましたが、菅氏と小泉氏は今閣内にいて、ポスト安倍の候補者でもありますし、平氏も当選5回の中堅です。
今回の事務次官更迭など序章に過ぎず、完全な民営化ができなかった郵政は、いずれ、必ず経営困難に陥ります。再建の手立てがあるとすれば、小泉政権が行ったような民営化を再び指向せざるを得ないでしょう。
0コメント