時事

EUの新体制が12月1日に発足しました。政策執行機関、欧州委員会の新委員長であるドイツのフォンデアライエン前国防相は、同委員会を「地政学的委員会」として位置付けると宣言(やはりバカです)。対外関係において主張を強め、特に大国が相手の場合はより強硬にEUの利益を追求すべきだと所信表明しています。

EUは統合軍も統合的な情報機関も持たないため、地政学的目標の達成には経済政策を手段にするしか手がありません。しかし、その経済という政策ツールの在り方を見れば、域外での影響力行使に向いていないことは明白です。

EUにとって最も重要な政策ツールは、加盟国が一体となって行動する数少ない分野の1つ、貿易です。EUは従来、域内の輸出国の市場アクセス最大化と特定産業(特に農業)の保護を目的とする貿易政策を実施してきました。こうした政策は地政学的目標に応じて微調整することが可能だとでも考えてるんでしょうか。

具体的に見て浮かび上がる答えはノーです。EUは北アフリカからのオリーブなどの農産物輸入に市場を開放して、同地域の成長を促進し、経済移民の流入に歯止めをかける必要がありますが、イタリアやスペインの反対のせいで実現できてませんし、今後も無理でしょう。またEUは長年、バナナ輸入に関して、影響圏内にとどめておきたい相手(その大半は旧植民地)を優遇していますが、そんな政策は経済的に意味不明(より安価にバナナを生産できる国からの輸入をなぜ制限するのか)であり、WTOのルールに明確に違反しています。

経済的てこの利用(というより誤用、悪用)が想定できるもう1つの分野が、旧ソ連諸国との関係です。欧州には、「一帯一路」経済圏構想の下で幅広い国々(EU加盟国も含まれる)にインフラ事業向け低利融資を行う中国が、欧州大陸の周辺部を取り込んでいるのではないかと懸念する向きが多いのですが、この場合も、ガバナンス重視の原則を放棄していいのかという問題があります。

EUが多くの建設プロジェクトを支援するバルカン諸国を考えると、EUは支援に当たって、厳格な費用便益分析を行います。人口が比較的少ない地域の間をつなぐ高速幹線道路の建設は地元政治家の支持を得られるでしょうが、経済的には勘定が合いません。だからこそEUの融資機関である欧州投資銀行や欧州復興開発銀行は、通常、この手の計画を支援しないよう勧告を出します。

中国に倣って、EUが無用の長物への融資を始めたらどうなるのかというと、高額な維持コストが判明し、融資の返済期限が来た途端、当初の感謝の念が消えうせ、デフォルト危機の犯人探しが始まります。これは一帯一路に参加した多くの国の現状が証明しています。

EUが地政学的目的のために経済的手段を活用できると考えられる分野は開発援助のみです。EUとしての援助額が世界4位の規模である上に、EU加盟各国全体でその5倍に上る額を援助に費やしています。

EUの主なODA対象国であるシリアやアフガニスタン、エチオピア、ソマリアは、難民・移民の多くを送り出す国でもあり、これらの国の経済的繁栄に手を貸すことは、EUにとって大きな利益になりますが、汚職や経済的管理ミスのせいで発展は延々進みません。

一方、地政学的重要度がより低いほかの国にEUが援助を行えば、極めてポジティブな影響を与えられる可能性が沢山あります。そうした国にカネを振り向けなければ、EUの開発援助が持つ効果は減少し、費用対効果はゼロに近づくのです。

EUは経済面で今も米中と肩を並べるレベルにあるからこそ、経済力を活用すれば地政学的パワーが手に入るのではないかと思いたがりますが、そのためにはEUの核をなす原則を捨て去らなければならないでしょう。

はっきり言えば、メルケルや、その片腕のフォンデアライエン委員長などの左巻きが行ってきた移民政策などは理念のみを残し、もっと言えば放棄し、費用対効果の上がる資本主義らしい政策に切り替えれば、地政学的にも経済的にも、もっと地位は上がりますが、今の執行部やそれを支える左巻きには糠に釘でしょうから、このままEUが解体するのか、ユーロが無くなり自国通貨に戻るのかまで突き進むでしょう。世界中、左巻きの言う正論は現実にはそぐわないのはわかりきっていることです。