時事

新型肺炎の勢いが、衰える気配がありません。乗員乗客約3700人が乗っている大型クルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号の船内での感染者数も既に70人。

各国は水際措置を強化しています。中国滞在者の入国拒否は、アメリカ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピンなどで行われていて、湖北省滞在者などの入国・入境拒否を実施しているのは、日本、韓国、香港などです。中国人向けビザの発給停止・制限は、シンガポール、ロシア、ベトナムなど。鉄道、航空便の運航停止は北朝鮮、イタリア、イスラエル、ロシア、インドネシアなどが行っているのが現状です。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、各国で中国への渡航歴のある人の入国拒否などが相次いでいることについて「公衆衛生上の意味はあまりなく、不安や悪いイメージを助長する恐れがある」として自重を求めました。中国政府もこのWHO見解を理由として、制限をしている各国を非難しています。

「公衆衛生」とは、WHOの定義によれば、「コミュニティの組織的な努力を通じて、疾病を予防し、生命を延長し、身体的、精神的機能の増進をはかる科学であり技術である」とされています。

公衆衛生と異なる概念として臨床医学というものがあります。これは一人の患者を対象として病気の診断や治療を行うもので、公衆衛生は、疾病の背後にある社会的な環境要因を見て疾病対策を考え、国や国際社会という大きな目で見るものであり、費用対効果を考えて評価します。

一般論としていえば、人や物資の移動制限は、その費用などマイナス面を考慮すると必ずしも有効ではありません。移動制限をするより、感染者との濃厚接触を避けて手洗い・消毒を徹底する方が、より感染防止効果が高いからです。ただし、感染力が強いなど特定の状況下においては、移動制限も一時的に有効であることはWHOも認めています。

経済面でのマイナスという観点からみると、感染の初期段階において、感染者が特定できず将来どの程度病気が拡大するかの不確実性が高い場合は、経済活動が著しく阻害されてしまいます。その点、人や物資の移動制限には不確実性を減少させるはたらきがあり、費用対効果の面からも正当化できと考えられ、今はその段階であろうと思われます。

「第三国経由での入国などもあるため、完璧な移動制限はできないから無意味」というWHOの意見もありますが、要は感染を少しでも防ぎ、再感染率を減らせればいいのです。入国制限をすり抜ける人数は程度問題であり、1人でも例外があれば無効というのは非科学的なバカのする判断です。

そもそも、中国国内でも移動制限は行われていて、感染経路も治療法もわからない、という不確実性ばかりの感染症拡大の初期段階では、移動制限がほぼ唯一の対策です。いろいろなことがわかってくれば、移動制限のコストパフォーマンスが悪くなるので、別の手段が有効になってきます。