時事
今はもう日本では論議にすらならなくなった「大きな政府」と「小さな政府」という民主主義国家論。日本以外の先進国では、保守派は小さな政府を目指し、左派は大きな政府を目指します。「それが?」と思う方が多いのが日本の現状で、その最大の理由が、保守である自民党も大きな政府を目指し野党も大きな政府を目指すという歪な政治体制にあります。これのどこが歪なのかすら説明できる政治家は少ないのではないでしょうか。小さな政府というのは、名前の通り官僚組織と政治家を必要最低にしようとします。となればリストラされる官僚と議員が出てくるので自民党も野党の官僚組織も反対するのですが、唯一、維新のみが小さな政府を掲げています。
政府のサイズの大小は、自ずと政策にも影響します。大きな政府は規制を張り巡らし危険の先取りをしようとします。彼等曰く「予防」(笑)。小さな政府は「規制」を少なくし「監督」を増やします。最低限の規制を施し、問題が出たときに監督庁が対応するのです。日本人は「安心、安全、安定」の「3つの安」が好きで、公規制社会の中で生きていて「普通」を目指しますから、そういう国民の期待を背負った政治になります。口では「トライしよう!」というものの、失敗したらボロカスに叩くという嫌悪すべき面を持ち合わせています。
下記のWSJのコラムの背景には、大きな政府による「普通を目指す社会」と、小さな政府による「トライしようとする社会」があり、歴史上、戦争などの国難の時期は「大きい政府」、平時は「小さい政府」になるものです。財務省やポチのマスコミなどが、国民に不安要素ばかり振りまく背景には、「大きい組織による大きな権限」を維持したいという既得権維持の心理が働いており、既得権者のいう事はたいてい「真逆が正解」なのです。
コロナ対策、共和・民主とも「大きな政府」へ傾斜
Jacob M. Schlesinger
2020 年 4 月 8 日 13:32 JST
新型コロナウイルスによる経済面への打撃を抑制するため、米政策担当者の間で「大きな政府」型の大胆な取り組みを模索する動きが出ている。それには新たな労働者保護政策から最低所得の補償などが含まれ、これらは米政府が果たすべき経済面での役割の再定義につながる可能性がある。
米政府と共和・民主両党の議会指導者らが採用した、現在進行形の緊急対応の戦略は、リベラル派の活動家らが過去10年間磨き上げてきた政策の重要部分を借用している。
その中には次のようなものが含まれる。失業給付対象のギグワーカー(ネットを介して単発で仕事を請け負う労働者)への拡大。大きな打撃を受けた借家人の立ち退き回避策。学資ローン利用者への救済策。民間企業の経営幹部や株主への利益分配、労組加入労働者との関係などを規定するガイドラインの作成。
こうした措置の大半は過去1カ月間に規則、大統領令、約2兆ドル(約218兆円)の支援パッケージ、その他の法律の形で採用されたもので、一時的措置であり、実施規定によって希薄化されつつある。トランプ政権の当局者と共和党議員らは、こうした措置について、現在の異例の経済的ショック下の特異な状況に合わせたもので、政策指針の長期的な変化を示すものではないように見せようとしている。
民主党は、こうした施策について、今回の危機によって暴き出された以前からの経済的問題を是正するための、より野心的な改革の始まりと考えている。
これらの主張は、新たな救済計画の策定やこれまでの施策拡大の是非をめぐり、今後何週間かにわたって行われる議会論争の中でも展開されるだろう。
今回のパンデミック(感染症の世界的大流行)対応で打ち出された諸政策は、限定的な形ではあっても、市場の機能不全と認識された状況を是正するための政府介入に関する論議の方向を変えたという点で重要だ。これは決して、ニューディール式の大改革ではない。しかし今回のパンデミックは大恐慌と同様、危機が去った後も残る政策面の構造的変化を醸成している。
フロリダ州の証券会社レイモンド・ジェームス&アソシエーツで政府の政策に関するアナリストを務めるエド・ミルズ氏は次のように話す。「これまで異端的、党派的と見られてきた特定の考えが、これほど急に主流派に取り入れられたことは衝撃的だ。これらの道具は、今や道具棚に準備されており、今後再び利用されるだろう」
1つの大きな転換点は、一連の新たな労働政策の中に見られる。
米国は歴史的に労働市場の柔軟性を支持してきた。政府は、苦境にある企業が自由に従業員を削減できるようにする一方で、労働者が新たな仕事を見つけるのを手助けしてきた。これとは対照的に欧州とアジアの当局者は、労働者が以前からの仕事を続けられるようにすることを優先してきた。
しかし現在米政府は、従業員を維持するよう雇用主を鼓舞したり、なだめたりしている。
8000億ドルの企業向けの補助金および融資には、一時解雇を最小限にするための動機付けがなされていたり、命令が付随していたりする。連邦議会はまた、欧州式のワークシェアリングに補助金を出すことを認めた。ワークシェアリングは、各従業員の労働時間を減らすことで、困窮した雇用主による人員削減を回避するものだ。
それでもまだ就業者数を削減する必要があるという企業に対しては、失業保険の対象を拡大することで、一時解雇よりも一時帰休を奨励する新たな政策がある。一時帰休では、景気の下降局面が終われば従業員の職場復帰が明確に保証される。従業員は給与を失うものの、福利厚生の手当は維持できる場合が多い。
この政策が施行されたのは、大量の一時解雇が既に始まっていた後だったため、どれほどの効果があるかは不透明なままだ。
組合労働者も、新たな保護措置を勝ち取った。新しい規則の1つは、比較的多額の支援を受けた企業に対し、連邦政府の融資期間とその後2年間について、既存の労働協約の尊重を義務づけるものだ。
この条項は、2008年の金融危機の際に企業が救済された時に生じ、今も残り続ける政治的な副産物に由来する。ハーバード大学法科大学院労働・ワークライフ・プログラムのエグゼクティブ・ディレクターを務めるシャロン・ブロック氏によると、「救済を受けた企業は『犠牲を共有し、協約を再交渉しなければならない』と主張した。その後、株主は企業再生に伴って急速に利益を回復したが、労働者、とりわけ自動車業界の労働者が以前の状態に戻るまでには長い時間がかかった」という。同氏はオバマ政権で労働関連の顧問を務めていた。
加えて、連邦政府からの救済を求める企業の一部は、労働者を組織化する試みに反対する動きを制限される。新しい法律の1つは、「融資の期間中、企業はいかなる労組組織化運動においても中立な立場を維持すべきだ」と述べる。
デービス・ポーク&ウォードウェル法律事務所コーポレートガバナンス部門の共同責任者を務めるジョセフ・A・ホール氏は、「通常なら合法なこと(救済を受けなければ労組の組織化に反対できる)さえできないと企業に告げることは、かなり大きな制約となる」と話す。
労組に関することのほか、労働関連の活動家は近年、2つのことを声高に主張するようになっている。それは、有給の病気休暇の対象を低賃金労働者に拡大することや、手当の対象をそのような取り組みの対象外になっている多くの労働者に拡大することだ。対象外となっている労働者の中にはギグワーカーが含まれる。ギグワーカーは自営業者および独立した契約業者に分類される労働者で、その数は増えている。
連邦議会は新型コロナ関連の救済策で、例外はあるものの、従業員数500人以下の企業に対して2週間の有給の病気休暇の付与を義務付けている。議員らは7月まで稼働する失業支援基金を創設し、通常ならフルタイムの従業員しか対象にならない失業手当を独立した契約業者に提供する。
パトリック・マクヘンリー下院議員(共和、ノースカロライナ州)は、ギグワーカーにとって、「これはニューノーマルだ」と指摘。「雇用のあり方は10年ないし20年前と比べ大きく変化している。理にかなったことだ」と話した。
米政府はまた、近いうちに大半の米国人に支払われる1200ドルの給付金で、所得補助政策に関する長年の慣習を変えた。
過去30年にわたり、低賃金労働者向けの給付付き勤労所得税額控除(EITC)や児童税額控除を中心とするこれらの政策は、条件付きで実施されてきた。政府からの給付を受け取るには、受益者が一定額の収入を稼ぐ必要があり、所得が増えるにつれて給付が増える仕組みだった。
基本的な考え方は、勤労回避の奨励策に陥ることを避けつつ家計を後押しする、ということだった。
救済策は、税額控除の対象となる最低収入額を撤廃する。この結果、適格条件が緩和され、少なくとも今後数週間にわたりほとんど全国民的な所得補償となる。
この変化は、過去20年間の中・低所得労働者の賃金停滞を受け、危機のかなり前に始まった所得補助政策の制限緩和をめぐる論議の中で起きた。
また、今回の危機対策には、賃借人や学資ローンの負債を抱える人々を対象とする救済策も盛り込まれた。これは、危機以前から進歩派の政治家が提唱していたことだ。学資ローンの負債を抱える4300万人の米国民のほとんどは、9月30日まで返済を猶予される。連邦政府は今後数カ月の間、他の多くの州政府や地方自治体と同様、一部の賃借人について強制立ち退きの執行を禁止した。米議会は、低所得の賃借人が家から追い出されなくてすむよう、新たな予算枠を設定した。
経済界にとって、助成策は企業に対する監督で連邦政府がより積極的な役割を果たすことを意味する。
公的資金を受け取る企業の一部は、自社株買いや配当金の支払いで株主に現金を還元することを禁じられる。しかも、公的融資の期間だけでなく、融資終了の翌年も禁止対象となる。リベラル派の論客は、自社株買いが従業員やその他のステークホルダーより株主を優遇することを促進しているとし、自社株買い規制を要求し続けていた。
補助を受ける企業は、経営幹部の報酬についても政府規制の対象となる。また新法によると、公的融資を受けた企業は「完済の2年後まで仕事を海外に移転したり外部委託したりする」べきではない、という。
政府補助には条件が付き物だ。2008年の金融機関救済でも、自社株買いや幹部報酬に制限がかけられた。しかし、金融機関はその時点で既に米国で最も厳しく規制される業種だった。今回の一連の新たな措置で、同じような規制が米国経済の中にさらに広がることになる。
具体的な政策を越えて俯瞰(ふかん)すると、コロナウイルスへの対応策は、「大きな政府」を一段と膨らませる新時代を到来させたと言える。今回の救済策は、連邦政府の本年度の支出を、国内総生産(GDP)の8%にあたる1兆5000億ドル拡大させる。財政支出の拡大は、経済における政府のシェアを20%押し上げ、米国の公共部門は欧州並みの位置を占めることになる。
保守派は、パンデミックをきっかけとした長期的な政府の膨張に反対していく、と主張する。マクヘンリー下院議員は「今回の措置は一時的な問題に対する一時的な政策だ」と言う。
リベラル派は、危機が今後数週間で一段と悪化すると見込まれる中、こうした議論は通用しにくい、と指摘する。
低所得労働者の権利擁護団体「全米雇用法プロジェクト(NELP)」のジュディ・コンティ政府担当局長は、「『苦しい時の神頼み』とはよく言ったもので、パンデミックの下ではリバタリアン(自由意志論者)は少数派だ」と語った。
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