利権死守が財務省の省是
基礎研究は、5年や10年でなく、50年、100年で測るものだけに民間資金ではできず、国家が適切な資金を提供することで、将来の国家の根幹をなす柱ができるものです。今、世界一位のアメリカのGDPのうち、第二次大戦前に政府が資金を出した研究によってGDPの35%もの柱になって社会に還元されています。財務省は、自分たちに差配する権限を維持したいだけで屁理屈を捏ねますが、法学部出身者に何がわかるというのでしょうか。
大学研究、巨額ファンド構想への甘い期待
経済部 秋山裕之 大学 2020年12月4日 4:30 [有料会員限定]
政府・与党が大学の研究基盤整備に充てる費用を確保するために10兆円規模の「官学ファンド」を創設する調整を進めている。国の財政支出を元手に株式や債券で長期的に運用し、利益の一部を政策経費に使う。財務省は国家財政の根本を危うくすると警戒感を強めている。
萩生田光一文部科学相は11月12日の参院文部科学委員会で「大学などの研究力強化を長期的な視野で安定的に支援していくため、ファンド創設などの具体的な検討を進める」と表明した。自民党の要求を受け、政府は追加経済対策に盛り込む。
毎年度の予算以外からも若手研究者らの支援や大学拠点を整備する資金を調達するのが狙い。日本はトップ10%の被引用論文シェアが90年代の4位から16~18年に9位まで落ちており危機感がある。
旗振り役を務める自民党の渡海紀三朗元文科相は「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のように分散して運用すれば、長期的には利益が出る」と語る。
ファンドでの運用益を研究資金に充てる発想は米国の大学がモデルになる。ハーバード大学は寄付で集めた巨額の資産4.5兆円を株式やヘッジファンドで運用し、利回りは7%に達する。日本は大学の寄付が少ない。官学のファンドを作っても、当面は大部分は国の予算措置や政投融資に頼らざるをえない。
財務省は10兆円ファンドに危機感を募らせる
「松下幸之助の無税国家論のいいとこ取りになる」。財務省の矢野康治主計局長らはこんな危機感を募らせた。
パナソニック創業者の松下幸之助氏は毎年度の予算を使い切らず、剰余金を積み立てて運用する国家運営を提唱した。「100年間続ければ利子だけで予算がまかなえるようになるから、税金はいらなくなる」と説いた。
この財政論はあくまで税収の剰余金を原資とした運用だ。政策経費を税収などで賄えるかを示す基礎的財政収支の赤字が20年度一般会計で66兆円に上る状況では、ファンドは借金して株式運用する仕組みになる。性質が異なる「いいとこ取り」というわけだ。
野村証券の西川昌宏氏も「損失が出た時の責任の所在がはっきりしない」と疑問視する。01年に解散した年金福祉事業団(現・GPIF)は欠損が生じ、年金保険料の積立金で穴埋めした。今回のファンドは損失が出て廃止する場合、多額の税金を投入しなければならなくなる。
「大学等ファンドを創設し、大学の抜本改革を進め、若手研究者支援を含む研究基盤の抜本強化を後押し」。自民党の下村博文政調会長が11月30日に菅義偉首相に渡した追加経済対策の提言にこんな文言が入った。
「大学の抜本改革」はファンドに反対する財務省と折り合いをつける努力の表れだった。大学にも資金面での主体的な努力を求めれば、一定の歯止めをかけられる。
財務省が最も恐れるシナリオは社会保障や公共事業にも波及し、運用で政策経費を賄うスキームが際限なく広がる事態だった。これから詰めるファンドの制度設計が重要になる。財務省と関係省庁や与党との攻防は続く。
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