時事

先日、白血病の新治療薬「キムリア」の保険適用が決まりました。既存の治療薬が効かない患者への効果も期待されるのですが、キムリアに続き今後も高額薬が相次いで出てくることで、医療保険財政の見直しへつながるんじゃないでしょうか。

キムリアは、スイス製薬大手ノバルティスの遺伝子治療薬で、15日に厚生労働省中央社会保険医療協議会で、国内薬価として3349万3407円!!に決まりました。更に、自己負担は3分の1の1100万円ではなく、それよりはるかに低いので、ほとんど保険負担となります。

2016年度の国民医療費は42兆1381億円、人口1人当たり33万2000円で、年々増加傾向に歯止めがききません。その要因として、老齢人口増加と医療費単価の上昇があるのですが、最近では、後者、医療費単価が激増し、今後も5000万円級の新薬がどんどん出てきます。

こうした傾向から、抗がん剤オプジーボの時に議論されたように、医療保険財政を破綻させかねないという声も出ています。

医療は保険ですから、その運営原理は保険数理なので、数学的に考えてみましょう。今回のキムリアの場合、通常の治療では治らなかった難治性の白血病やリンパ腫などの血液がんに対して高い有効性が確認されています。

つまり、対象は特定の血液がんで、通常の治療で治らなかった患者のみとされ、適用者は限定されてきます。

厚労省では患者数をピーク時で年216人、販売金額を72億円と予想していて、このくらい限定された数なら、保険対象としても保険財政は破綻しません。

要するに、可能性は低いが、運悪く対象になったら、みんなで助け合おうというのが、保険ですからムリアは保険対象となるという理屈です。

ただし、ほかにも多くの新薬が保険対象となってきた場合、どうなるか。

そのたびに、キムリアと同様な保険計算が行われます。保険負担額が大きくなれば、保険料を改定して引き上げることもあり得るでしょう。その場合、救われるメリットと、増すコストとのバランスを考慮し、国民が判断することになります。具体的に言うと、国会議員選挙の時に「保険負担の増減」が一つの焦点になり、負担額を上げて充実させる、負担額を下げて軽減させる等で候補者の選別を行うという方法です。無論、それを言明しない候補者は落とせばいいだけです。

医療の場合、特に日本では「施し」という考え方もあります。その場合、心情としては際限なく助けたくなるのですが、そこで出てくるのが保険原理です。保険原理では、保険給付と保険料総額は見合っていなければなりません。冷酷な言い方になりますが、ほとんど国の社会保障はこの原理の下で行われて、人の命には「相場」があるのです。

給付財源は保険料であり、その他のものは、給付と負担の明確な対応関係をぼやかすものになりますから、この意味で、消費税を保険財源とするのは間違いで問題が多く、世界の先進国では行われているのは日本だけです。社会保障目的税として最も明快なのは社会保険料だからだです。

日本の消費税は、社会保障以外への財源にもなっており、その使途には疑問も疑念もあり、国民の支持を得ていない税制を野田政権が下した決断のまま受け継いでいます。

そもそも徴税コストも低く良い税制であるはずが、財務省がその使い方を誤り、無知な旧民主党を騙してスタートさせました。また、当時野党の自民党は谷垣氏が党首で、谷垣氏は完全なマルキストですから税論理と社会保障の区別もつきませんでした。ちなみに、当時の安倍総理は消費税の社会目的化に反対しています。保険原理に適合せず世界の非常識となるからです。消費税を上げたい財務省は、歪んだ消費税のまま進まなければ社会保障が安定しないと国民を脅しますが、消費税を止めて社会保険料を上げれば済む問題です。歪みは必ず破綻を招きます。理屈に合わんことは続かんのです。