時事
かんぽ生命に、顧客に対し新旧契約の保険料を故意に6ヵ月以上二重払いさせるなど、かなり悪質な不正が多数発覚していて騒ぎになっています。
かんぽ生命の顧客数は約2600万人ですが、不正契約件数は実に約9万3000件にのぼるといいます。被害に遭った顧客のほとんどは高齢者層である点も悪質です。「常套手段」とされていたのが乗換時の不正で、保険の二重契約(2万2000件)、無保険期間を作る(4万7000件)といったものです。
被害者からは、「80歳代の母が、かんぽ保険の乗換で被害に遭い、30万円の不利益を被った。母は郵便局を信頼していたから、貯めたお金を言われるがままにだまし取られた」との声も上がっているなど、郵便局というブランドを信じていた人々の心を踏みにじる、詐欺的な行為で、被害総額の詳細は、まだわかっていません。
この種の話が出ると、「郵政民営化による歪み」のために不正が起こったという、事実誤認かバカなのか早とちりの意見がすぐにでてきます。しかし経緯を調べれば、このような見方がすぐに間違いだとわかるはずです。
マスコミの報道しか知らない人は「郵政は民営化された」と思い込んでいますが、実は民主党政権時代に「再国有化」されているのです。不正の発端も、そこに潜んでいます。
小泉政権時代、郵政民営化の制度設計では、まず、郵政民営化が実行された理由をハッキリさせましょう。マスコミはこの基本を理解していないから話しがチンプンカンプンなのです。
民営化前の郵政は、(1)郵便事業、(2)郵貯事業、(3)簡保事業を営んでました。しかし、郵便はインターネットの登場によりジリ貧、郵貯は貸出部門がなく、簡保は100年前の不完全保険である「簡易保険」しか商品開発できず、いずれの事業でも経営問題が起こることは時間の問題でした。こうした経営問題を抱える事業を維持するためには、年間1兆円もの税金補填(ミルク補給と財務省は呼んでました)が必要でした。それでも、いずれ郵政が経営破綻するのは確実でした。
小泉政権が成立させた郵政民営化法では、(1)日本郵政という持株会社の下に、郵便会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を設けること(4社分社化)、(2)日本郵政への政府株、郵便会社と郵便局会社への日本郵政の株式をいずれも維持しつつ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命では、日本郵政の株式をすべて売却する(完全民営化)としていました。
こうした民営化を通じて、郵便会社と郵便局会社には「郵便」以外の事業展開を、ゆうちょ銀行にはまともな貸出を、かんぽ生命には「簡易保険」以外の商品開発を促そうとしたのです。それと同時に、年間1兆円にのぼる血税からの「ミルク補給」も打ち止めにしようとしました。郵便局会社を作ったのは、そこで簡易保険だけではなく、他の民間生保の商品も販売できるようにしないと、郵政全体の経営が危うくなるからです。後で詳しく述べますが、郵政民営化の制度設計当時から、簡易保険の商品性はあまりにお粗末であり、経営上簡易保険以外の商品も売る必要に迫られていたのです。
しかし、2009年に政権交代が起こり、民主党政権は、この民営化スキームを変更して、郵政を事実上「再国有化」してしまいました。つまり、(1)日本郵政という持株会社の下に郵便会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を設けること(3社分社化)、(2)日本郵政への政府株、郵便会社、ゆうちょ銀行とかんぽ生命への日本郵政の株式はいずれも維持する(非民営化)としたのです。
公的事業の民営化のキモは、株式の民有化、経営の民間化で、それが無ければ世界では民営化とは呼びません。郵政3事業にはすべてに政府株が係っています。しかも、小泉政権時代の民営化の際、民間から西川善文元住友銀行頭取ら20名程度の民間人が入りました。まともな経営しようとすれば、この程度の人員がいなければ、郵政のような巨大組織は運営できません。この意味で、西川氏は本気で郵政を民営化しようとしました。
しかし、上述のように民主党政権で民営化は否定され、「再国有化」されました。特に痛かったのは、政府株だけではなく、小泉民営化で馳せ参じてきた民間人もすべて追いだされたことです。さすがに民主党のボンクラでも、民間人なしではマズイと思ったのか、お飾り程度の人材は来ましたが、西川氏のように大量に腹心を連れてくるようなことはなく、ほぼ一人で来て、あっという間に元郵政官僚に籠絡されるのがオチでした。
その後民間では、民主党政権時代に、郵政へ送り込まれた民間人が追い出された事実が知れ渡りましたから、経営の心得がある人材は誘われても敬遠するようになりました。小粒で有能でない民間人が単発で来るようになったことも、郵政が実質的に「再国有化」されたことを物語っています。
要するに郵政は、小泉政権時代に民営化されたものを、民主党時代に再国有化され、事実上、以前の国営とたいして変わりなくなったのです。今回のかんぽ生命の不祥事を考える上で、この点をおさえておかなければなりません。
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