時事

7月30日の続きです

カンポを含む郵政が改革をサボっている間に、保険市場は激変しました。

かつて、日本人は生保好きといわれ世界中で有名でした。そのため外資系保険会社は日本市場への参入を強く希望し大蔵参りをしたものです。たしかに、1990年代の生命保険料のデータを見ると、日本は先進国の中でも高い部類でした。

一方、1990年代まで、日本の保険業界には金融縦割り規制があり、保険業界でも生命保険と損害保険は分離され、銀行、証券とも分離されてました。それが金融自由化の波とともに、業界の垣根が取り除かれていき、特に証券投資信託の販売は、証券会社だけではなく銀行にも広げられ、今や銀行の大きな収益源です。

実は、保険という金融商品は保障の面ばかりが強調されますが、運用面をあわせて考えると、保障と証券投資信託のハイブリッド商品です。掛け捨ての保険なら保障機能だけといえますが、保障機能が弱く満期返礼金が強調される貯蓄型保険は、証券投資信託とほぼ同じなのです。

かつて保険好きと言われていた時代の日本で主流だったのが、貯蓄型保険でした。それが金融自由化により、証券投資信託の販売が広く銀行などに認められるとともに、外資系保険会社にも参入が認められたので、本邦系生保会社の競争環境は激変し、合併に次ぐ合併の嵐となり、もう前の会社名も忘れるほどです。

その結果、今では日本の生命保険料などは概ね標準的な水準に落ち着きました。競争原理が働いているのです。もはやデータからは「生命保険好き」と言えない状況で、日本の保険市場における競争はそれほど激化し、低金利・ゼロ金利環境も保険会社の収益に影響を与えています。

しかし、これらの環境変化が民間生保会社にもかんぽ生命にも等しく影響を与えている中、かんぽ生命では事実上、商品が簡易保険しかないという特殊事情があります。まあ、特殊事情というより無能なだけのことですが、簡易保険は今からおよそ100年前の1916年に開発された古い商品で、その特徴は、健康診断がないという点です。当時は地域による医療格差も大きく、全国規模のカンポにはもってこいの商品でした。

当たり前ですが、民間生命保険の場合、健康診断を要件としてリスク管理を行った上で、保険料率と保険額を決めています。しかし簡易保険の場合は健康診断がないのでリスク管理がうまくできず、それをカバーするために、保険額を低く抑えています。

単純なしくみと言えばそれまでですが、保険数理からみれば「どんぶり勘定」にも近いものであり、保険商品として保障機能が弱く、運用成績の悪い証券投資信託と同じような商品であるといえます。要は商品価値が無いのです。このため簡易保険は、金融自由化の波をモロに被ってきました。

小泉政権時の郵政民営化の制度設計時に、簡易保険という旧来商品だけではまともな生保会社になれるはずもないので、新商品開発とともに、民間生保の特色ある保険も販売できるように設計されました。しかし、民主党時代の「再国有化」によって、その時間はムダになってしまったようです。

かんぽ生命は新商品開発を怠り、その代わりに従来通りの「ノルマ」で戦おうとしました。民間生命保険会社のような商品は開発能力がなく作れないので、旧来商品を体育会系のノリで、販売員へ「ノルマ」を課すことで乗り切ろうとしたのです。

民間生保には「生保レディー」という強力な販売部隊がいたので、それを活用する人海戦術も行ってきましたが、さすがにそれには時代の限界もあり、現在では新たなステージに移行し対応しています。しかしかんぽ生命は民間生保から見れば「周回遅れ」の状況です。

ネット上では、かんぽ生命関係者を名乗る人物からのこのような書き込みがあります。

「今回の問題は今に始まったことではなく、ずっと以前からあった問題です。お客様を騙してでも保険契約をした職員は評価され、それを指摘した職員は評価されないだけではなく、邪魔者としてパワハラされるのがかんぽ生命です」(元郵便局員)

「会社の上層部は昔から不適切な営業をして数字という結果を残してきた人がほとんどです。優秀成績者と呼ばれる人のほとんどは上から守られるようになっていました」(かんぽ販売員)

こうした営業実態は、10年くらい前から蔓延し始めたという証言もあり、ちょうど「再国有化」のタイミングです。

郵政を「再国有化」すれば元官僚主導の会社になります。新商品開発のための知恵も当然ありません。そのため、体育会系の「ノルマ」頼みにならざるを得なくなり、今回の発覚となったのです。せめて他の民間生保なみのまともな保険商品であれば、それほどの「ノルマ」を課さなくても、郵便局ブランドである程度販売できただろうと思うと、当時民営化に反対してきた議員の顔が目に浮かびます。

これで、かんぽ生命は「ノルマ」営業と決別せざるを得ませんが、生命保険商品として簡易保険を売ることはもはや不可能でしょう。かんぽ生命は経営危機に陥ります。

今回発覚した被害の詳細はまだ明らかにされてませんが、現在のかんぽ生命は民間会社ではなく、国の関連企業です。この詐欺的な営業に、国の責任がないとは言えません。被害者が代表訴訟で訴える可能性もありますし、株主代表訴訟も起こされるでしょうから役員は総退陣になります。国はどう対応するのでしょうか。

いずれにしても、民営化を逆戻りさせた政策のミスですから、国の責任は免れないでしょう