時事
昨日の続き。
現在のアジア地域における安全保障体制は、ヨーロッパにおけるNATOのような多国間の集団安全保障体制とは異なり、アメリカを軸とした二国間同盟を束ねたような状態になっています。具体的には、日本とアメリカの日米安全保障条約、韓国とアメリカの米韓相互防衛条約、フィリピンとアメリカの米比相互防衛条約、オーストラリアとアメリカの太平洋安全保障条約、台湾に対する防衛義務を定めたアメリカの台湾関係法などです。
こうした状況のことを、自転車の車輪などになぞらえて「ハブ・アンド・スポークス(Hub and Spokes)体制」と呼び、アメリカが「要」となって中心の車軸の位置にあり、各国がアメリカと個別に繋がっているのです。
特に東アジアでは、北朝鮮問題への対応がさしあたりの最大の脅威ですから、日米、米韓のそれぞれの二国間安全保障協定に基づき、すべての情報をアメリカを介してやりとりするのでは、緊密な連携に支障が出かねませんので、「日米韓」という一体体制をとるために、アメリカが後押しして日韓GSOMIAを2016年に締結させました。これで、日韓間の情報共有ができることとなり、「日米韓」の協力体制ができたという背景があります。
しかし、今回の韓国による日韓GSOMIAの破棄は、この「日米韓」の一体体制に決定的な亀裂を入れることになりました。
韓国政府は、ことの重大性を理解していないのか、その後も延期していた竹島での軍事訓練を通常の倍の規模で実施するという、全くの暴挙であり外交センスを疑う行為を実行。当然のことながら、アメリカも軍、議会、内務省と強烈な不快感を表明しています。
この軍事訓練がお笑いなのは、韓国が投入したイージス駆逐艦の心臓部であるデータはアメリカのものであり、当然日本も共有しているということです(笑)。それをおもちゃのように扱う韓国に対して、アメリカが猛烈に反発したのは当然です。
日韓GSOMIAの破棄で一番困るのは、日本ではなくアメリカです。それをわかっていなかった韓国の自業自得で、アメリカとしては、世界の至る所で火種がくすぶる状況で、せめてアジアでは日韓が協調して負担を少なくしてくれというのが本音でしょうが、韓国の駄々っ子ぶりに頭を抱えているところでしょう。
ここまでのアメリカの反応は、せいぜいポンペオ国務長官止まりでしたが、先日のパリG7サミットで、これまで表立って韓国に言及してこなかったトランプ大統領が「韓国は金正恩になめられている」と述べた、と報じられました。ここで思い出されるのが、トランプ大統領が2016年の大統領選で公約していた「在韓米軍の撤退」です。日本のマスコミに踊らされている国民には意外に思うかもしれませんが、トランプ大統領は公約の実行率が高く、戦後の大統領の中ではずば抜けた確率です。アメリカの左派メディアはトランプ大統領を批判していますが、トランプ大統領から見れば、「大統領選で勝利した以上、どんどん公約を実行して何が悪いのか」といったところでしょう。
韓国も、対米関係で川を渡ってしまったので、手始めに前政権で導入されたTHAADや米韓軍事演習の見直しを行い、在韓米軍の撤退の方向で動いてゆくはずです。文在寅大統領は、最終的には、悲願とする南北統一と社会主義国家化を目指すでしょうから、そうなれば当然、米韓相互防衛条約の破棄につながり、アジアの安全保障枠組みは大きな変更を余儀なくされます。もちろん韓国国内でも、文大統領の側近のスキャンダルが噴出するなど、流れは一方的というわけではありませんし、韓国国内の保守系も黙ってるはずもなく、また韓国の歴史を見れば文大統領が暗殺されても驚きません。しかし、トランプ大統領が「在韓米軍撤退」を公約に掲げていることを考えると、韓国もその方向へのモメンタムを強め、アジア地域の安全保障の枠組みは、大きく変更される可能性が有るのです。
続く。
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