時事
10月17日のブログでユニクロの柳井さんを批判しました。日本経済の未来について、経団連をはじめとする経済3団体や有名企業経営者がその予想、改革への提言を行うことは何ら珍しいことではありません。様々な経験、競争を勝ち残ってきた経済人の示す経済問題への洞察から学ぶべきことも多々あります。しかし、「経済人の経済問題への提言」がマクロの経済環境に及ぶと、その妥当性が急速に下がります。これは経済人の経験する経済がマクロではなくミクロだからで、マクロ経済に関する経済学を学んでいないために、現実と乖離した話をしたりマルキストのようなことを宣います。
17日に張り付けた『日経ビジネス電子版』における柳井さんへのインタビュー「目覚めるニッポン~柳井正氏の怒り「このままでは日本は滅びる」」においても、経営者がマクロ経済を語る際に陥りがちな誤解が典型的に表れています。
組織論や精神論が中心の日本論で、そのなかで示されるマクロ経済に関する特徴的な提言が、「まずは国の歳出を半分にして、公務員などの人員数も半分にする。それを2年間で実行するぐらいの荒療治をしないと」とあります。しかし、柳井さんが憂慮する日本国は海外に比べてそんなに歳出が大きく、公務員の多い国なのかというと違います。
OECDのなかの30か国内で、日本の中央政府・地方政府あわせた政府総支出の対GDP比は24位(39%)と下位に位置します。ちなみに米国は25位(37.8%)と日本よりも財政規模は小さいものの、大きな差はありません。
比較範囲で政府支出対GDP比が最も低いアイルランドでも28.8%と日本の半分まではいきません。財政規模が大きいことが経済停滞の原因なら、日本よりも財政規模の大きいほとんどの国の経済の説明がつきません。柳井さんの無知から来る妄想で実に柳井さんらしい
(笑)。
日本の財政支出には無駄遣いが多いと思われるかもしれませんが、これも事実とは異なります。日本の財政支出のうち、最大の項目は社会保障支出で、社会保障支出を「無駄遣い」ととらえることは一般的ではないはずです。社会保障費以外の政府支出の対GDP比では、29位(15.4%)と30位のアイルランド(13.2%)並で、現時点で日本の財政規模が大きいと主張するのはむりがあります。
公務員削減についても、ごく簡単なデータがあります。雇用者全体に占める一般政府雇用者比率は5.9%とOECD諸国の中で最も低い値です(但し、外郭団体は除きます)。ちなみにOECD諸国の同比率の平均は18.1%であり、日本は突出して公務員比率の低い国であることがわかります。
これらについては、防衛関連職員の少なさや郵政民営化に伴う郵便局員の非公務員化が影響しているという見方、さらには政府関連企業の雇用を含めれば日本はまだまだ公務員が多い国だとの反論もあります。
『世界価値観調査』では勤務先に関する質問が含まれている。そのなかで、自分が「公的機関(Government or public institution)で働いている」と答えた人の割合、制度上の定義ではなく自己認識によるデータを見ると、日本は10.7%と調査対象58国中57番目となっている。日本よりその割合が低いのはモロッコ(10.4%)のみです。
直感がいつでも正しいとは限らないという例です。この直感的な理解の問題点は、経済人のマクロ経済への提言がなぜ誤るのかを理解することができます。
経済に関する問題を考える際には、今直面している問題がオープン・システム問題であるのか、クローズド・システム問題であるのかに注意しなければなりません。
オープン・システム問題とは、課題となっている対象に「外部」がある問題で、例えば企業が成績の振るわない従業員を解雇し、不要の費用を節約するとなると少なくとも短期的には利益は増加します。企業は業績を圧迫している要因を「企業の外に出す」ことが可能だからです。企業に関する問題は、それがいかに大きな企業であれオープン・システムの問題なのです。
一方で、このようなリストラ策は日本経済のための施策として妥当なものかというと、ある企業を解雇されたとしても、その当事者が日本国民でなくなるわけではありません。彼らが生活をする費用は、本人による貯蓄の取り崩しであれ、政府による社会保障であれ、日本国内の誰かがなんらかの形で負担することになります。「日本国民をリストラすることはできない」のです。これが政府が常に追い求める完全雇用論です。
このように、「外部」がないために「特定要因を組織の外に出す」ことができない問題をクローズド・システム問題といいます。
企業経営は典型的なオープン・システム問題ですから、著名な経営者はオープン・システム問題に関するスペシャリストといっていいでしょう。しかし、それをもってクローズド・システム問題についても有益な提言を行いうると考えることは難しいのです。
オープン・システム問題とクローズド・システム問題は全く性質が異なり、むしろ対極的と言える問題です。現在の日本で財政支出を減額したら、それによる需要低下によって景気は大幅に悪化します。景気の悪化は税収減を通じて、財政収支を悪化させるます。
加えて、公務員数の削減によって雇用が失われ、賃金に低下圧力が加わった場合もまた同様です。
経営者が問題解決の提言を行うというとき、自身の経験に根差した発言を行おうとすればするほど、問題をオープン・システムとしてとらえる傾向があり、ボクの知る限り、そうでなかった人は今は亡き土光さんくらいです。人はだれしも自身の経験から影響されずに思考することはできません。
あくまで個人的な見解ですが、柳井さんは特殊です。柳井さんは2代目で、初代はユニクロの前身となった小郡商事という会社でした。代表者は柳井さんの叔父で、全日本同和会初代会長で故野中広務氏と同和対策審議会委員を務めていたという家柄ですから、その胸には、常に反政府という歪んだ思想があります。歪みが現実乖離した無知を呼び単純なデータすら見えなくなったのでしょう。先般、問題の関西電力と言いユニクロと言い、同和は吐き気がします。
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