時事

中国で、多くのウイグル人が収容施設に送られ、虐待を受けているという内部文書が流出しました。文書を公開したのは各国の記者でつくる団体「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)です。同団体は、パナマのタックスヘイブン(租税回避地)を利用して各国の指導者や富裕層らが行っていた脱税や資金取引を暴露した「パナマ文書」を公開したことでも有名です。パナマ文書以降、窮地に陥った各国関係者も少なくありません。

中国政府は、イスラム教徒が大半を占める少数民族、ウイグル人の収容を急拡大させており、収容施設に多数が送り込まれています。米当局者や国連の専門家によると、「政治再教育」収容所には最大で100万人のウイグル人が収容されていると調査報告されています。

今回公開された文書によれば、中国政府がウイグル人を何十万人も組織的に洗脳していることも明らかになりました。ただし、中国政府はこれまで一貫して、「収容所では、希望者に過激思想に対抗するための教育と訓練を提供している」と説明してきており、今回も公開された文書は事実ではないとしています。

これまで中国政府は、収容所を職業訓練の施設だとして一部の海外メディアなどを招いて正当性をアピールしてきましたが、内部文書では、それとかけ離れた実態が明らかになっています。これまで、断片的な情報だった中国政府によるウイグル人に対する不当な拘束や虐待などの人権侵害を、今回の文書が裏付けた形です。

また、中国政府が新疆ウイグル自治区で大規模な監視システムを構築し、ウイグル人の管理を行っていたことも明らかになっています(下記の記事)。

米国はウイグル人に対する人権侵害に関与したとみられる中国政府当局者に対し、入国ビザの発給を制限するなどの措置を講じていますが、現在、日本政府はこのような措置はとっていません。

今回、中国政府による人権侵害を裏付ける文書が明らかになったことで、ポンペオ米国務長官は、「中国共産党が人権を踏みにじっている証拠だ」と述べ、ドイツのマース外相も、「中国は人権に関するルールを順守すべきだ」と批判しました。英政府は国連監視団の受け入れを求めています。今後、こうした国際社会からの非難はさらに強まるでしょう。

こうしたなか、トランプ米大統領は、香港での人権と民主主義の確立を支援する法案に署名し、同法案は成立した。この法律については、中国は「内政干渉だ」と批判し、成立すれば報復措置をとると警告していたものの、現在行われている米中貿易交渉が頓挫すると中国経済がさらに悪化するので、口先だけの報復に終わっています。

今回の中国から内部文書が流出した背景には、西側諸国と対抗して人権侵害を行う習近平体制への内部からの批判も存在し、中国共産党が決して一枚岩でない実態が見えます。

いずれにせよ、香港問題とウイグル問題は中国のアキレス腱(けん)であり、西側諸国が一斉に圧力をかけると、習政権にとって手痛いダメージになるでしょう。



中国政府、ウイグル人を収容所で「洗脳」 公文書が流出

11/25(月) 13:12配信

中国西部の新疆ウイグル自治区にある、高度の警備体制が敷かれた収容施設で、中国政府がイスラム教徒のウイグル人を何十万人も組織的に洗脳していることが、流出した文書によって初めて明らかになった。

中国政府はこれまで一貫して、収容施設では希望者に、過激思想に対抗するための教育と訓練を提供していると説明している。

だが、BBCパノラマが確認した公文書は収容者の監禁や教化、懲罰の状況を記録しており、中国政府の説明を覆す内容になっている。

これに対し、中国の駐英大使は、文書は偽物だとしている。

収容施設は過去3年間に、新疆ウイグル自治区内で建設されてきた。イスラム教徒のウイグル人を主体に、100万人近くが裁判を経ずに施設内で拘束されているとみられている。

■「悔い改めと自白を促せ」

文書は、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した。

ICIJにはBBCパノラマや英紙ガーディアンなど17の報道機関が参加。今回流出した中国政府の公文書を「中国電報(The China Cables)」と呼んでいる。

文書には、2017年に新疆ウイグル自治区の共産党副書記で治安当局のトップだった朱海侖氏が、収容施設の責任者らに宛てた9ページの連絡文書も含まれている。

その連絡文書では、収容施設を高度に警備された刑務所として運営するよう指示。以下の点を命じている。

・「絶対に脱走を許すな」

・「違反行動には厳しい規律と懲罰で対応せよ」

・「悔い改めと自白を促せ」

・「中国標準語への矯正学習を最優先せよ」

・「生徒が本当に変わるよう励ませ」

・「宿舎と教室に監視カメラを張り巡らせて死角がないことを(確実にしろ)」

流出した文書はまた、収容者の生活が細かく監視、管理されている状況も示している。

「生徒のベッド、整列場所、教室の座席、技術的作業における持ち場は決められているべきで、変更は厳しく禁じる」

「起床、点呼、洗顔、用便、整理整頓、食事、学習、睡眠、ドアの閉め方などに関して、行動基準と規律要件を徹底せよ」

■1週間で1.5万人が入所

別の文書からは、ウイグル人の拘束と収容の規模がわかる。

ある文書は、2017年のわずか1週間の間に、新疆ウイグル自治区の南部から1万5000人が収容施設に入れられたとしている。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当責任者ソフィー・リチャードソン氏は、流出文書は検察当局に活用されるべきだと話す。

「これは訴追に使える証拠で、甚だしい人権侵害が記録されている。収容者は全員、少なくとも精神的拷問を受けていると言っていいと思う。自分がいつまでそこにいるのか、まったく分からないからだ」

■人格改造が目的か

流出文書はさらに、収容者は自分の行動や信条や言葉を変えたと示すことができて初めて、解放されるのだと詳細に書いている。

「生徒には悔い改めと自白を促し、彼らの過去の活動が違法で犯罪的で危険な性質のものであることを深く理解させよ」

「浅い理解や悪い態度、反抗心すらうかがえる人には(中略)教育改革を実行し、確実に結果を達成しろ」

こうした指示を受けた収容施設について、人権問題に詳しく、ウイグル人組織「世界ウイグル会議」の顧問をつとめる英勅選弁護士のベン・エマーソン氏は、収容者の人格改造が狙いだと話す。

「ひとつの民族コミュニティー全体を対象に作られ実行されている、巨大な集団洗脳計画以外の何かだとみなすのは、非常に難しい。新疆ウイグル自治区にいるイスラム教徒のウイグル人を、個別の文化集団として、地球上から消滅させようとしている。そのために彼らを完全に作り変えることを意図した取り組みだ」

■点数システムで管理

文書によると、収容者は「思想変革、学習と訓練、規律の遵守」について点数が与えられる。

収容者の家族との接触の可否や解放時期は、罰と報酬のシステムにより判定される。解放は、共産党委員会が変革の証拠を得たときだけ検討される。

流出文書は、中国政府が集団監視と、個人情報の分析に基づいた予測による取り締まりを実行している様子を明らかにしている。

ある文書には、携帯電話にZapyaというデータシェアリングのアプリを入れていることだけを理由に、180万人が要注意人物とされたことが記されている。

当局は、そのうちの4万557人を「一人ひとり」調べるよう命令。「疑いを晴らすことができなければ」彼らに「強制訓練」を受けさせるべきだと述べたという。

■「中国に対する中傷だ」

流出した文書からは、外国の市民権をもつウイグル人の逮捕や、外国で暮らすウイグル人の追跡に関する明確な指示も読み取れる。

世界規模で捕獲網を張り巡らせるため、中国の大使館や領事館が役割を果たしていることも暗示している。

中国の劉暁明・駐英大使は、中国の施策は新疆ウイグル自治区の人々を守るためであり、同自治区では過去3年間、テロ攻撃は1件も起きていないと述べた。

「当該地域は現在、社会的に安定し、民族集団もまとまっている。人々は満足と安全を以前よりずっと強く感じ、生活を楽しんでいる」

「西側には、そうした事実を完全に無視して新疆について中国を熱心に中傷している人々がいる。彼らは、中国の国内問題に介入し、新疆における中国のテロ対策を妨げ、中国の順調な発展を妨害する口実を作ろうとしている」

(英語記事 Data leak details China's 'brainwashing system')

(c) BBC News



トイレから入浴まで厳格監視 新疆収容所管理の機密文書がリーク

2019年11月27日  

絶対に逃亡は許さない、真に変化するまで指導するー。メディアの連合組織が入手した中国の機密文書には、新疆ウイグル自治区の強制収容所運営について詳細な運用マニュアルが書かれていた。ポイント制で収監者を管理し、トイレから睡眠まで厳格な監視の中で生活するなど、中国当局が主張する「職業訓練センター」には相応しくない非人道的な人の管理が行われていることが明らかになった。

14カ国17のメディアが参加する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は24日、公式サイトで、「自治区国家機関電報」と題された内部文書の内容を伝えた。2017年、当時の新疆地区の公安部門上級官員・朱海論氏が作成したものという。

「トイレから入浴まで」

中国共産党政権はウイグル族らイスラム教徒が住む新疆で、テロ対策や地域の情勢安定を理由に再教育センターを数十あまり設置している。2017年4月以来、当局により「強い宗教観」と「政治的な誤り」のために逮捕された人は180万人を超えると見られている。日本や米国を含む20数カ国は10月、国連人権理事会で、中国に対して新疆における恣意的な逮捕と拘束を即刻停止するよう求める非難声明を出している。

このほどICIJが報じた中国の公文書によると、当局は各収容施設の責任者に対して「授業中、食事中、トイレ休憩、入浴時間、医療措置、家族との面会など、生徒の行動を厳密に管理する」よう指示を出している。また、病気やその他の理由で出所しなければならない人は誰でも「特別な同行者を派遣し、監視したり、コントロールしたりする」よう要求している。

収容施設側は、「生徒のイデオロギー的な問題や異常な感情を常に観察し、解決する」よう指示されている。また、拘束されている人から携帯電話を押収して、外部との接触を断たせている。

「寮や教室には死角がないように監視カメラを完全配備し、警備員がリアルタイムで監視し、詳細を記録する。疑わしい行動を即座に報告できるようにしなければならない」としている。

この文書によると、施設側は囚われた人々に中国語、中国国内法、職業技能を毎日チェックしている。人々の教化の一環として「思想の指導」を厳密に行うと同時に、細かな「日常生活の行動規範」を強化するよう指示している。 「起床、点呼、洗濯、トイレへの行き方、整理、清掃、食事、勉強、睡眠、ドアの閉め方」など。

所内の人々は「生徒」と呼ばれ、「成績」を図るためにポイント制度に応じて「等級」分けされている。「毎月および年間の合計スコアを計算して学校のファイルに記録する」と文書には書かれている。

「生徒のスコアを教育とトレーニングの有効性を測定するための基本的な基準とし、それを報酬、罰、および家族の訪問に直接リンクする。レベル管理を行い、スコアに従って治療を差別化し、生徒が管理に従い、真剣に勉強し、真に変化するよう奨励する」

各収容所では、スコアに応じた釈放の基準が設けられているようだが、文書によると「少なくとも1年間は訓練センターで教育され、訓練されることを最低条件」としている。

最後にこの文書は、施設の管理者に対し、記された規則について厳密に扱うよう指示している。

「携帯電話やカメラなどの映像機器を教育施設および管理地域内に持ち込んだり、インターネットにアップロードしたりすることを固く禁じる。関連する重要なデータを集約したり、広めたり、外部に公開したりしてはいけない」

「内部文書、人権侵害の裏付け」ポンペオ長官

今回流出した新疆政策の内部文書は、施設では非人道的な行為があるとの証言を裏付ける証拠となる。中国共産党政権は、「職業訓練」ではなく強制収容を行っている。ポンペオ米国務長官は26日、記者会見でこの文書の内容は「非常に重大な人権侵害の裏付けになる」として、中国を非難した。

英BBCや仏AFPほか主要英字紙、また大紀元の取材に応じた新疆の収監体験者や家族の話によると、新疆の収容施設に拘禁された人々は、政治的教化を受け、日常的に監督者の手による手荒な扱いを受けている。過密状態にある施設で、劣悪な食事や不衛生な状況に置かれている。SNSには、収容所にいる家族の解放を求めるウイグル族の人たちの動画が多数あがっている。

カザフ系のイスラム教徒で、1年余り新疆の収容施設で言語指導係を務めたSayragul Sauytbayさんは2019年10月、海外メディアに対して「忘れることのできない記憶」を語った。施設では女性たちへのレイプが続いており、説明されない薬物の投与、女性避妊具の強制着用などがあったという。Sauytbayさんは家族でスウェーデンに亡命した。

「警備員は頻繁に女性たちをレイプしていた。忘れる事ができないのは、若い女性が200人ほどの収容者の前で服を脱がされ、女性は相次ぎレイプされたこと。警備員たちは監視していて、他の収容者たちがこの行為に怒りの声をあげたり、頭を下げたり、目を閉じたりすると連れ出され、二度と目にすることはなかった」

別の女性で、英BBCパノラマの取材に応じたグルジラさんは、1年3カ月にわたり収容された経験を語った。「女性のトイレは2分以内。急げ急げとせかされる。遅いと電気棒(高圧電流が走る警備用器具)で後頭部を叩かれる。叩かれた後は『先生ありがとうございます、次からは遅れません』と言わなければならない」

新疆の施設内の規則については、11月中旬、中国語のインターネット掲示板に流出した403ページにおよぶ新疆政策に関する公文書のなかに含まれていた。ニューヨーク・タイムズによると、文書をネットに掲載した人物は匿名を希望する中国政府の内部関係者で、北京の指導部がこの新疆政策について説明責任を負うよう求める人物だという。

中国外務省は、ICIJが新疆の内部文書を報じたことについて、定例記者会見で、新疆に強制収容施設があることを否定し、「職業教育訓練センター」があるとの従来の主張を繰り返した。

ワシントン拠点のシンクタンク、共産主義被害者記念基金会の上級顧問アドリアン・ゼン氏は、中国の公文書を分析すると、小さな自治体レベルも含めて新疆の集中管理施設は1000以上あると推計した。

9月、米国務省のジョン・サリバン副長官はニューヨークで開かれた国連総会の関連イベントで、国連は、中国に新疆政策の説明をさせていないと批判した。また、ウイグル族の大量拘束や人権侵害に関する報告を作成するために、国連査察官の自由な立ち入りを求めるべきだと語った。

(翻訳編集・佐渡道世)