時事

米中がぶつかり合っているというより、一方的にアメリカが中国を懲らしめているのですが、貿易関税、領土、為替、安全保障、知的財産侵害、人権と来て次はデジタル通貨です。

アメリカではFacebookのリブラにストップがかかりましたが、中国が国家としてデジタル通貨に邁進している以上、基軸通貨ドルを脅かす存在になるものは潰してしまわねば、多額のアメリカ国債に対する通貨の裏付けが無くなりドルが不安定になります。デジタル人民元は中国と中国の同盟国でのみ使われるように、乗り越えられない壁を作らねばならず、それは日本も同じことです。通貨はGDPなどと違い、片方が上がればもう一方は下がるというのが為替ですから、たとえ通貨バスケッツを適用し現行通貨の裏付けがあったにせよ、必ず為替も連動して動きますから、円が現在の価値を維持しにくくなるのです。世界一安定している円という通貨の中で暮らす日本人にはデジタル通貨の有難みがわかりにくいのですが、政情不安定な国は通貨も不安定ですし、政府の信認のない国は通貨の信認も無く、一定規模でデジタル通貨へ逃避するのは避けがたいと思います。

中国に招待され、上海や北京の近代的な部分だけを視察し、盛大な宴会でもてなされ、場合によってはピンクトラップまで敷かれ、「中国はいい国だ!」なんて発言しているバカは、学者や記者だけでなく、官僚にも国会議員にも自治体の首長にもいます。

中国がいい国、信用できる国の訳がないでしょ。



デジタル通貨戦争に現実味、今すぐ備えを

デジタル人民元の導入はプライバシー巡る新たな戦線を開くことに

2019 年 12 月 10 日

 これはそう遠くない未来の話である――。米国家安全保障会議(NSC)は近く、緊急会議を開く。北朝鮮は、グアムの米軍基地を射程圏内に収める核弾頭を搭載したミサイルを発射した。このペースで行けば、1年もたたないうちに米本土に核ミサイルが撃ち込まれる可能性がある。

 厳しい貿易制裁にもかかわらず、北朝鮮が核能力を進化させていることはショッキングだが、この背景には北朝鮮に流れ込む米国や同盟諸国が監視できない資金の存在がある。暗号資産(仮想通貨)だ。といっても、にわか長者を生み出し、堅実な投資家は概して避けているようなハイリスクなものではない。正当な裏付けのある新たな暗号資産、すなわちデジタル人民元だ――。

 上記は架空のシナリオだが、幻想ではない。中国が計画通りデジタル通貨を導入し、北朝鮮がそれをミサイルの開発資金の調達に使用すれば、米国の制裁をかいくぐって資金が流れることになる。そうなれば米国はもはや時代遅れとなった自国通貨を何とかしなくてはならないだろう。米国は中国に倣い、世界経済の支配を維持するためにドルをデジタル化すれば、強力な監視ツールを手に入れることにもなる。

 最初に普及した暗号資産であるビットコインは取引で匿名性を保つために作られたが、未来のデジタル通貨は匿名性とはほど遠いものになるだろう。

 デジタル人民元を使用したあらゆる取引を中国政府が追跡可能なように、デジタルドルの取引も全て発行元である米国政府に筒抜けになる。銀行は引き続き資金の流れを管理するかもしれないが、これまでのように記録を保持する役割はなくなる。

 「お金の根本的な性質がまさに変わる」。こう話すのはマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボのデジタル通貨イニシアチブを率いるネハ・ナルラ氏だ。

 ナルラ氏は、ハーバード大学ケネディスクールで先月行われた北朝鮮を巡る架空のシナリオ「デジタル通貨戦争」のシミュレーションで、政府のサイバーセキュリティー関連の取り組みを調整する「サイバー皇帝」の役割を演じた。この模擬訓練にはローレンス・サマーズ元財務長官やアシュトン・カーター元国防長官、ゲーリー・ゲンスラー元商品先物取引委員会(CFTC)委員長など米政権元幹部らも参加した(このリンク先で全シミュレーションを視聴可能)。

 われわれは新たな通貨の時代に突入しつつある。さまざまな国や企業がデジタル通貨について、自国の通貨制度の新しい基準であり、現物通貨に代わるものとみている。

 デジタル通貨には、決済の高速化やコスト低下、マネーロンダリング(資金洗浄)の根絶、より開放的で包摂的な金融制度の構築が可能になるといったメリットがある。一方で、法執行当局や政府に新たな能力を与えることになり、あらためてプライバシーを巡る戦線が開かれるのはほぼ確実だ。

 「プライバシーはわれわれの時代を定義づける問題の1つ」であり、お金に関わるプライバシーもそうだとブロックチェーン技術を手掛けるアバ・ラボ(Ava Labs)のエミン・ギュン・シラー最高経営責任者(CEO)は話す。同氏は米コーネル大学のコンピューター科学教授でもある。実質、ユーザーを特定しない形態のデジタル通貨を作ることはほぼ不可能だという。

 われわれが思い浮かべる「お金」とは実際、何千もの商業銀行や中央銀行で構成される極めて複雑なネットワークを指す。このシステムは有効だが、誰もがそれぞれのバランスシートを使用しているためコストがかかり、比較的効率が悪い。デジタル通貨は特定の通貨を使用する全ての人が同じバランスシートを使用する仕組みだ。

 11年前に公表されたビットコインの構想は、現代の金融システムの面倒な機能を圧縮し、実質的に手数料なしで世界中どこにでも数分で資金を移動させられるようにすることが狙いだった。少額でも国際送金をしようとしたことがある人なら、このアイデアがいかに魅力的なものかが理解できるだろう。

 しかし、ビットコインは第1幕にすぎない。今夏フェイスブックが暗号資産「リブラ」構想を発表し、第2幕が切って降ろされた。これは、暗号技術の利用を推進する活動家や反銀行派による緩やかな連合とは訳が違う。世界有数の規模と影響力を持つ(そしてたびたび物議を醸してもいる)企業が突然、お金を「作る」と言い出したのだ。

 この発表を受け、さまざまな動きがあった。米連邦議会は公聴会を開き、リブラの導入を阻止する法案を作成。規制当局は、当初リブラに参画を申し出ていた一部企業に手を引くようプレッシャーをかけた。イングランド銀行(英中銀)のマーク・カーニー総裁は、国際的な暗号資産をドルに代わる新たな基軸通貨にすることを提案。中国は独自の暗号資産の取り組みを急ピッチで進め、数カ月中にデジタル版の人民元を導入することが広く見込まれている。

 ハーバード大学ベルファー科学・国際関係研究所のエクゼクティブディレクターで「デジタル通貨戦争」のシナリオを作成したアディティ・クマール氏は「これは単なるベンモやペイパル(などのようなオンライン決済サービス)ではない」と指摘。「世界における国の運営方法を一変させるもの」であり、「通貨制度のごく限られた参加者に全権を与えることになる」と述べた。

 中国が計画しているデジタル人民元は実際、ビットコインとは正反対のモデルに基づいている。データは全て一元的に保管され、監視国家の一部を形成することになる。

 お金は常に強力な鈍器となってきた。それは意志だけでなく価値を負うものでもある。第2次世界大戦後、ドルは国際的な通貨制度の基軸通貨となった。それにより米政府は特別な道具を手にすることになった。米国はドルを基軸とした金融システムに対する支配力を利用し、北朝鮮などに対して制裁を科してきた。

 世界経済に占める米国のシェアが縮小し、中国やインドなどのシェアが拡大するにつれ、さまざまな国がドルに代わる通貨を積極的に模索し始めている。

 北朝鮮を巡る架空のミサイル危機では、中国政府がデジタル人民元の全ての取引を把握できるようになっており、北朝鮮の核開発計画に資金が流れるよう暗に手を回す。もちろん、これは極端な完全に架空のシナリオだが、中国が自国のシステム上の全ての取引をいかに有利に利用できるかを示す一例だ。問題は、中国がそうした優位をどれほど示威的に利用するかだ。

 中国のモデルは極端な例かもしれないが、暗号資産はその方向に向かっている。ビットコインは現金の匿名性をデジタルな形態で模倣する一方で、取引は全て公開されているため、追跡可能だ。フェイスブックのリブラについては、取引データはリブラに記録されるものの、ユーザーの身元情報は別のデータベースに記録される。議会が主に懸念しているのは、フェイスブックがその情報をどう扱うかだ。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が米国通貨をデジタル化したと想定してみよう。FRBは市場に流通するドルの全ての取引を追跡できる。そうなれば、経済の成長状況を把握し、どこに刺激策を振り向けるのが最も適切かを判断する上で極めて有利になる可能性がある。しかし、政府関係者が一部の団体や活動を封鎖しようと思えば、それも可能だ。銀行の役割も大幅に変わる可能性が高い。ただし、銀行がデジタルドルで得をするか損をするかは、政府がそれをどのように発行するかにかかっている。

 米国がデジタルへの移行を迫られるかどうかはまだ分からない。暗号資産に関して議会では賛否が割れている。FRBはデジタルドルについて、まだ構想を検討しているだけにすぎない。

 ハーバード大でのシミュレーションでは、サマーズ氏ら参加者がこの点について協議した。デジタルドルに着手すべきだという人もいれば、既存システムを改善すれば十分だという人もいた。

 クマール氏は、このことについてすぐにでも検討し始める必要があると話す。中国のデジタル人民元は、現実世界における概念実証になる。欧米諸国はそれに何らかの形で対応する必要がある。「その準備がわれわれにはできているのか」とクマール氏は問う。「技術面だけでなく、法律面の準備もだ。果たしてわれわれは、この新たな世界でプライバシーを守ることができるのか」