時事
新年早々、やっかいな問題です。米国とイランが一触即発の状況。
世間では、昨年末のゴーン被告の国外への逃亡の話題でもちきりで、ゴーン被告に対するGPS装置の装着を東京地裁が保釈条件から外した「国際的非常識」と、プライベートジェットに関して以前から問題視されてきた、出国時の検査不備(大きな荷物はX線検査機器に入らないので野放図)が根本原因ですから騒ぐほどのニュースじゃないんですが…。
ゴーン被告はまんまとレバノンに逃亡したものの、中東では、ペルシャ湾南側の国に基地を置く米国と、北側にあるイランがキナ臭くなっています。
新年早々の1月3日、米国はイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害しました。それに対し、イラン側は報復を表明しています。
もともとトランプ大統領はイランに対して強気でなく、実際、昨年6月にはイランへの空爆を実行直前に中止している事実があります。空爆を実行すれば、イラン側に150人の死者が出るとの報告があり、米国側は無人機による攻撃で死者は出ないのに対して、イラン側に多数の死者が出るのはアンバランス過ぎる、との判断が働いた結果です。
その空爆中止が結果として、昨年9月のイランによるサウジアラビア石油基地への攻撃につながったといわれています。国際情勢で弱腰は許されないという典例です。もっとも、この攻撃でも死者は出ていませんでした。
トランプ大統領が態度を一変させたのは、昨年12月27日、イランが支援するとされる武装勢力の攻撃によって米民間人1人が死亡し、米兵4人が負傷したからです。これを受けて、トランプ大統領はソレイマニ司令官の殺害計画策定を即座に指示したと報道されており、つまり、トランプ大統領にとっては「米国人の生死」がレッドラインだったのでしょう。
これは、きわめてシンプルなラインの引き方です。昨年6月の空爆停止、9月のサウジアラビア石油基地への攻撃に報復しなかったこととも整合的です。トランプ大統領の言う「米国民を守るため」という説明とも、すっきりとつじつまが合っています。
ただし、イランにとってはソレイマニ司令官は国民的英雄なので、報復しないと政府は国民に示しがつきません。しかも、イランは2月に議会選挙を控えていて、保守派は、ロウハニ大統領ら国際協調主義の穏健派を押さえ込みたいと考えていますが、今回のソレイマニ司令官殺害とそれへの報復は、保守派にとって追い風になるでしょう。
一方トランプ大統領も、今回の危機を政治的に利用しているフシがあります。
クリントン元大統領は、弾劾訴追の最中であった1998年12月にイラクへの空爆を行っています。国民の目をそらすためでした。クリントン氏は、1994年6月にも北朝鮮への先制攻撃を検討しその一歩手前まで行っているので、大統領の判断というのはトランプ大統領に限らず、極めて危ういものだというのはルーズベルトまでさかのぼっても歴史が証明しています。
歴史に “IF” はありませんが、このとき米国と北朝鮮の開戦もありえたのです。その当時、日本は政権がころころ変わる政情不安であったので、日本側への連絡や相談はあまり行われていなかったらしく、今から考えると、ぞっとする話です。
いずれにしても、トップ同士の信頼関係が戦争には大きく関わってきます。トップの面識が乏しいと戦争に至る確率は増しますが、米国のトランプ大統領は、イラン最高指導者のハメネイ師を「ホメイニ師」と言い間違うくらいで、個人的な信頼関係は希薄でしょうから、米国・イラン関係は大変危険でしょう。
「トランプ大統領は民間人出身なので戦争はできない」という楽観的な意見を言う識者も多いのですが、今回のソレイマニ司令官殺害を見ると、レッドラインを超えれば実力行使も辞さないということでしょう。
こうした米国・イランの現状を考えると、1、2月中にはいつ偶発的な衝突があっても不思議ではなく、トランプ大統領は「52カ所の攻撃目標を定めた」とツイートしています(https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1213593975732527112)。
52の根拠については、「1979年のイランアメリカ大使館人質事件で52人の米国人が人質になったから」だと明らかにしていますが、52はトランプの札の枚数でもあり、「いかなる札も用意している」というメッセージじゃないでしょうか。
トランプ大統領の強硬姿勢は、弾劾潰しとともに、今年11月の大統領選を有利に進めたいという思惑もあるでしょう。オバマ政権の中東政策を弱腰と非難できるうえ、米国経済は石油価格が上がってもダメージがありません。
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