時事

教科書で習った(ボクの時代は)パンデミックと言えば中世のペストです。当時のヨーロッパでは、14世紀半ばから70年余りの間に、人口の3分の1以上が死亡したと推定されています。しかし、現実は皮肉なことに、人口の激減で実質賃金が上昇し、消費が増え、長期経済成長を実現した「長い世紀」へと繋がりました。ペストは、産業革命と国民国家の登場を告げるものとなったのです。

では、「コロナ後の世界」はどうなるのか考察します。 それぞれの国家が鎖国してバラバラになった世界で、米・中・ロシアといった大国がむき出しの力で覇を競い合う時代が来るのでしょうか。

ヨーロッパではNATOが4月から、3万7000人を動員しての冷戦後最大規模の軍事演習を計画していました。アメリカからは実に22万の将兵が装備と共に海を渡り、主役を演ずるはずでした。クリミア併合でロシアの脅威が増大したと見立てての軍事演習です。

しかし、新型コロナウイルスの拡散防止のため、演習への参加を大幅に削減。さらにトランプ米大統領は、6月にキャンプデービッドで行うはずだったG7首脳会議をテレビ会議に変更すると発表しました。アメリカをハブとする戦後の国際秩序体制は、コロナウイルスで遂に破壊されたかにも見えますが、中国とロシアを見れば、アメリカ以上の窮状にあります。中国は、トランプの高関税政策と新型肺炎の合わせ技で大打撃を受けています。延期した全国人民代表大会を何としてでも開くため、都合の悪いことは無理やりにでも隠蔽し、国民と世界の反発を呼ぶでしょう。もはや一帯一路のような外交イニシアチブを続ける力もありません。今後は、約束事を果たせない中国と中国マネーを当てに一帯一路に参加した国々で衝突が表面化してきます。

ロシアでは、プーチンが憲法を変えてまでも大統領に座し続ける姿勢を示したのとほぼ同時に、この20年にわたり彼の成功を支えてきた原油が高値圏から崩落。昨年には1バレル=65ドル周辺で推移していた油価が今では20ドル。ロシア経済を支えてきた原油が赤字を垂れ流すようになったために、これからのロシアは経済不安を元凶とした国家不安定期に入ります。

ロシアはこの数年、自国を核とする経済圏「ユーラシア経済連合」を拡大するべく、ウズベキスタンなどに露骨な圧力をかけてきましたが、これももう終了(笑)。プーチン延命を可能とする憲法改正は、4月22日に国民投票に付される予定でしたが、新型コロナの影響で6月以降への延期を迫られています。この間にプーチン延命への反対機運は高まり、国内情勢は不安定化するでしょう。

アメリカは、なんだかんだで覇権を強化しています。軍事・経済両面で図抜けた力を維持したままです。NATOの演習は規模こそ縮小されましたが、欧州・中東・アジアの米軍は健在で、80兆円相当の軍事予算がそれを支えます。そして今回、世界中の金融機関やグローバル企業、各国政府が決済のためのドル資金を求めて狂奔。ドルレートの急上昇が示すように、世界経済におけるアメリカの存在感はダントツのままです。

当面、気を付けるべきは、米政府やFRB(連邦準備理事会)による多額の公的資金で崩落を免れた市場が、モラルハザードよろしく投機行動に狂奔することです。彼らは当座の利益を確保しなければならない立場にありますが、クライアントとの関係が「金」のみの投資会社は破産するでしょう。

中世のペストと違い、今回は賃金も上がらず、インフレも起きず、生産が止まってもモノはあふれています。一般の方が気を付けることは一つしかありません。『不安をあおる文言、コメントは無視し、目の前の問題を解決する』ことです。マスコミ、投資会社など、「不安ビジネス」の連中は、国民に不安をあおり儲けています。これは戦争時も同じです。彼らを焼け太りさせてはいけませんし、不安になろうがなるまいが、結果は何も変わらず、心配するだけ損をします。