香港
続き。
なぜ中国は今回、ここまで急いでこの議決を行ったのか。
よく言われているのは、香港で9月に立法会選挙を控えているので、それまでに香港国家安全法を制定し、選挙に備えようとしているということですが、この法律を整備すれば、何らかの理由をつけて「合法的に」民主派候補者、及びその支持者の動きを制圧できます。昨年11月の香港区議会議員選挙(地方選挙)では、北京政府が民主派の支持を甘く見て、「民主派」389議席対「建制派」(親中派)60議席と、民主派の圧勝に終わりました。もしも同様のことが9月に起こったら、香港議会が「憲法」に相当する香港特別行政区基本法を改正し、香港独立を果たしてしまうと北京政府は危機感を募らせたのでしょう。
もう一つが、香港は習近平に反旗を振る胡錦濤派の独占牙城だということです。習近平に負けず劣らず、胡錦濤も一族での蓄財は数十兆円あるといわれ、香港を拠点に世界中に投資をしています。コロナウイルスの影響で、中国は未曽有の不景気に見舞われていて、製造業のメッカである香港に隣接した広東省では、失業者が街に溢れているとされています。広東省に限らず失業者は北京政府に、強烈な不満を抱いていて、香港のデモを許せば、この先それが広東省、さらに中国各地へ飛び火するリスクが高いと北京政府は見ているのでしょう。北京政府が本当に恐れているのは、香港よりもむしろ中国大陸でのデモ拡散であり、最終的に見据えているのは、香港ではなく台湾です。『香港制圧』は近未来の『台湾制圧』の序章に過ぎません。台湾は、新型コロナウイルスの人口10万人あたりの感染者数と死亡者数で、世界最低に抑え込みました。こうしたことから、5月20日に始まった2期目の蔡英文政権は、圧倒的な支持を得て、独立志向を強めていますし、アメリカとの連携も過去とは一線を引く踏み込んだものばかりです。これに北京政府は危機感を強めていて、何とか手を打たねばということで、まずは香港を平定しようということなのだと個人的には想像しています。
しかし、今回の件は虎の尾を直接踏んだとなります。トランプ政権から見れば攻め所が満載です。コロナウイルス騒動が起きる直前の1月15日、米中は第1段階の貿易交渉に合意しました。中国は向こう2年で、2000億ドル分のアメリカの農産物などを購入することになっています。アメリカという国の外交歴史を見ればわかりますが、常に「良い人役と悪い人役」がいます。役どころではなく実際に意見が割れている場合もありますが、最終的にまとまるので役どころと見越して考えた方がわかりやすく、今の中国政策に関しても二つのグループが存在しています。一つは、貿易不均衡の是正を重視する「通商強硬派」で、代表格はトランプ大統領。他方は「中国は21世紀のソ連である」として、中国の社会主義体制そのものを弱体化しようとする「軍事強硬派」で、代表格はマイク・ペンス副大統領です。マイク・ポンペオ国務長官は、これら両派に属していると見た方がいいでしょう。
過去3年半近くのトランプ政権は、この両派のどちらの発言権が強いかで、対中政策を変化させてきました。今年1月の合意は、「通商強硬派」の側が中心になって進めたものです。トランプ大統領にしてみれば、貿易交渉で中国を屈服させたら、11月の大統領選挙で有利に運べると考えても不思議ではありません。実際、第1段階の合意後、アメリカの株価は上昇を続けました。ところが3月に入って新型コロナウイルスがアメリカに蔓延し、5月31日現在で、感染者数171万4671人、死者10万3605人も出しました。アメリカ労働省の5月28日の発表によると、5月23日までの1週間に新たに申請された失業保険の件数は212万3000件で、非常事態宣言を出した3月中旬以降の10週の合計は、4000万人を突破しています。これは失業率25%にあたり、世界恐慌の最悪期の1933年の統計に匹敵するのです。
こうなると、世界恐慌中の1932年の大統領選挙で、共和党のハーバート・フーバー大統領が、民主党のフランクリン・ルーズベルト候補に再選を阻まれたように、トランプ大統領も民主党のジョン・バイデン前副大統領に再選を阻まれる可能性が高くなります。実際、77歳のバイデンにリードを許しています。トランプ大統領としては、形勢逆転を狙って、「敵」が必要であり、それはコロナウイルスをアメリカに蔓延させた発生源の中国をおいてないでしょう。中国という悪役に立ち向かう「正義のヒーロー」の顔を見せることによって、パンダ・ハガー(親中の虫)で有名なバイデンを叩き再選を果たそうとしているのです。
そんなところに空気も読まない習近平が、5月28日に香港の民主化を取り締まる国家安全法を制定するという方針を決めたのです。トランプ大統領はこれまで、人権問題にはまるで無頓着でしたが、今回ばかりは、「飛んで火に入る夏の虫」と言わんばかりに、強烈な反応に出たというわけです。ほんと、習近平の無能ぶりには感謝しかありません。習近平は権力闘争しか能がなく、外交、軍事、経済には全く無理解です。
続く。
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